最後に「ぜひもっと心肺蘇生の研究資金を」と訴えて会場の喝采を浴びた

 米国心臓協会(AHA)などが昨年発表した心肺蘇生CPR)の新ガイドラインでは、心臓マッサージ人工呼吸の比率を「15:2」から「30:2」に変えるなど大きく変更され、救命救急の現場に衝撃を与えている。欧州蘇生協議会(ERC)の主要メンバーで英国Royal United病院のJerry Nolan氏は、9月3日に開催された臨床セミナー「心肺蘇生の新潮流」で新ガイドラインの変更点について解説、多くの変更が心マによる血液循環をできる限り中断しないためのものであることを強調した。

 新ガイドラインの変更点は、1次救命処置から除細動の仕方、2次救命処置における治療法など多岐にわたる。具体的には、(1)胸部圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸の割合を従来の15:2から30:2に、(2)心マを行う際、圧迫を加える手は胸の中央に、(3)除細動を1回行ったら、直ちにCPRを再開、(4)低体温療法の実施、などがある。このうち、(1)から(3)まではいずれも十分で持続的な血流確保を目指したものだ。

 特に影響が大きいのは(1)の心マと人工呼吸の比率。世界中の救命救急関係者が身体で覚えてきた「心マ15回ごとに人工呼吸2回」という基本手技を変える影響は少なくない。なぜ現場に混乱をもたらしかねない変更に踏み切ったのか。

 この点についてNolan氏は、マネキンを使った蘇生手技の研究成果を指摘した。圧迫・換気を15:2、1分間の圧迫回数を100回とした従来の教育を受けた救命者の場合、2回の人工呼吸のために心マを中断する時間が14〜16秒と長く、1分間当たりの心マ回数は39〜44回と、規定の半分にも満たなかったという。別の2つの研究によると、蘇生中に心マを実施していない時間は、病院外のCPRでは50%、院内でも24%に達するという。

 「30:2」の優位はブタを使った実験で証明された。拡張期圧、冠動脈圧、頸部動脈流量、実際の1分間当たり心マ回数のいずれについても、既存の「15:2」の手技を有意に上回ったという。

 除細動の手技も、心マの中断を最小限にするよう変更された。従来は3回のショックを与える間は55秒を限度として、CPRは中断することになっていたが、新ガイドラインでは、心マ中断は10秒以内とし、ショック1回ごとにCPRを再開するように変更したという。

 Nolan氏は、もうひとつ新ガイドラインで重視した規定として、脳の保護を目的とした蘇生後の低体温療法の導入を挙げた。エビデンスとしては、欧州5カ国9施設で実施された心停止後低体温(HACA:Hypothermia After Cardiac Arrest)研究がある。これは、VF心停止後に蘇生して、自発的な血液循環が回復したが意識が戻らない患者に対し、32〜34℃で24時間、低体温状態におくというもの。通常体温群と比較する研究の結果、低体温群では、神経学的に良好とされる比率が有意に高く、死亡は有意に少なかったという。

 従来、「救命の連鎖(chain of survival)」と呼ばれる救命の流れは、「救急車などを呼ぶ」「心肺蘇生」「電気的除細動」「医療機関における処置」の順とされてきたが、Nolan氏は、最後のひとつを低体温治療にすることも考慮すべきだとしていた。

 なお、ILCORの報告に基づく変更は、今後、日本版ガイドラインに盛り込まれる予定だ。検討中の日本版救急蘇生ガイドラインの概要は、こちらで閲覧できる。