神戸大学大学院細胞分子医学の田村香楠子氏

 GLP1受容体作動薬の1つであるリラグルチドによってアロキサン誘発糖尿病マウスの膵β細胞量は増加するが、その機序は膵β細胞以外の細胞の分化や新生ではなく、膵β細胞の自己複製の促進である可能性が示された。タモキシフェン誘発Cre/loxP部位特異的遺伝子組換えという手技によりあらかじめ膵β細胞を蛍光標識したマウスを用い、リラグルチド投与前後における膵β細胞量の変化を追跡した検討から明らかになった。9月23日から27日までバルセロナで開催された欧州糖尿病学会(EASD2013)で、神戸大学大学院細胞分子医学の田村香楠子氏が報告した。

 実験動物の系においては、GLP1受容体作動薬などのインクレチン関連薬の投与による膵β細胞量の増加が報告されている。しかし、どのような機序で細胞量が増加するかについては、明らかになっていない。今回、田村氏らはIns2-CreER/R26R-YFPダブルノックインマウスを用いて、そのメカニズムの解明を試みた。

 このダブルノックインマウスにタモキシフェンを投与することで、インスリンを産生する膵β細胞をYFP(黄色蛍光蛋白)で標識することができる。標識後のリラグルチド投与によって膵β細胞量が増加したとき、YFP陽性率が減少すれば増加した膵β細胞は非β細胞由来であり、YFP陽性率が変わらなければ増加分は膵β細胞由来と考えることができる。

 6週齢雄マウスへのタモキシフェン投与で膵β細胞をYFPで蛍光標識した後、アロキサンを単回投与し、翌日に血糖値が300mg/dLを超えたマウスをその後の実験に用いた。アロキサン投与翌日から30日間、リラグルチド(200mg/体重kg、リラグルチド群、10例)または溶媒(対照群、9例)を投与し、膵β細胞量の変化を評価した。

 試験期間中を通して、リラグルチド群、対照群ともに有意な体重変化はなく、摂餌量はリラグルチド群の方が少ない傾向にあった。血中インスリン値はアロキサン投与により激減したが、リラグルチド群は対照群よりも約2倍高く、両群間には有意差が見られた(P<0.05)。血糖値も約3週間後からリラグルチド群で有意に低下した(30日後ではP<0.01)。

 アロキサン投与によって、膵β細胞量もアロキサン非投与マウスの約15%にまで減少した。しかし、リラグルチド群の膵β細胞量は対照群よりも約2倍多く、両群間に有意差を認めた(P<0.05)。またインスリン抗体とYFPの蛍光二重染色で評価した膵β細胞のYFP陽性率は、アロキサン非投与マウス、アロキサン投与後のリラグルチド群および対照群の3群間に、有意な差は認められなかった。

 これらのデータから田村氏は、「アロキサン誘発糖尿病マウスにおいて、リラグルチドは膵β細胞量を増加させた。アロキサン非投与、およびアロキサン投与後のリラグルチド群と対照群の3群でYFP陽性率に変化がなかったことから、リラグルチドによる膵β細胞量の増加の機序として、非β細胞からのβ細胞の新生や分化の寄与はきわめて限定的と考えられる」と結論した。

 なお、予備的な実験から田村氏らは、リラグルチド投与によって増殖マーカーであるKi67の陽性細胞が増加することを確認しており、膵β細胞量増加の機序は増殖亢進である可能性が高いとのことだった。