東京都済生会中央病院糖尿病臨床研究センターの渥美義仁氏

 インスリン治療を受けている日本人2型糖尿病患者では欧米人と比較して、指示された通りに注射をしていない患者の割合は少ないことが明らかになった。その一方で、2割強の患者は指示通りに注射していない事実を医療従事者に報告しておらず、実態は調査結果よりも悪い可能性も示唆された。これは、日本を含む6カ国で行ったGAPP2研究の結果から明らかになったもの。東京都済生会中央病院(東京都港区)糖尿病臨床研究センターの渥美義仁氏らが、10月1日からベルリンで開催中の欧州糖尿病学会(EASD2012)で発表した。

 インターネットを活用した国際的な横断研究であるGAPP2(Global Attitudes of Patients and Physicians 2)は、インスリン治療を受けている2型糖尿病患者と糖尿病診療に携わっている医療従事者(専門医、プライマリケア医、看護師)を対象に、米国、カナダ、日本、ドイツ、英国、デンマークの6カ国で実施。インスリン治療のアドヒアランスに関する質問票をそれぞれの国の言語に翻訳した上で調査を行った。

 バイアスを減らすため、日本では約2万1000人に協力を依頼し、反応のあった約1万3000人の中から、2型糖尿病と診断されており40歳以上という条件を満たした500人に回答してもらった。そのうち、355人がインスリン アナログ製剤を使用していた。医療従事者についても同様に3万4000人に協力を依頼し、最終的に条件を満たした(プライマリケア医は月に5人以上、専門医は月に40人以上、それぞれ40歳以上のインスリン治療患者を診療している)医療従事者231人から回答を得た。

 日本人患者の背景は、平均年齢は57歳、男性が85%、有職者が65%、糖尿病と診断されてからの期間は平均10年、インスリン使用期間は平均5年など。日本人医療従事者の内訳は、プライマリケア医が38%、専門医が58%、糖尿病療養指導士が4%で、1カ月当たりに診療している40歳以上のインスリン治療患者数は平均73人だった。一方、日本以外の5カ国においては、患者2687人、医療従事者1422人のデータを解析対象とし、日本人と欧米人を比較検討した。

 その結果、患者の回答を基に見ると、日本人患者では欧米人患者に比べ、指示された通りにインスリンを注射しない率は低かった。基礎インスリンを注射しなかった経験があるのは欧米人が50%、日本人が38%、基礎インスリンの注射時間を指示された時間より2時間以上前後させた経験があるのは順に54%、33%、基礎インスリンを減量した経験があるのは順に39%、30%であり、いずれも日本人の方が有意に低かった。

 ところが、直近30日以内に5回以上指示された通りに注射しなかったと回答した患者は、いずれの項目でも日本人の方が多かった。注射しなかったのは欧米人が16%、日本人が20%、注射時間の2時間以上のずれはそれぞれ25%、45%、減量はそれぞれ26%、32%であった。なかでも、注射時間のずれについては有意差が認められた。

 次に、医療従事者の回答を基に比較すると、すなわち患者からの報告に基づく指示どおりでない注射の回数は日本人患者の方が少なかった。例えば、べーサルボーラスの場合であれば、注射しなかったのは欧米人が2.6回、日本人が1.1回、注射時間のずれはそれぞれ3.7回、0.9回、減量はそれぞれ3.7回、1.6回であった。その一方で、基礎インスリンの注射をしなかったことを医療従事者に過小申告していることを認めた患者の割合は、日本人が22%、欧米人が9%と、日本人で多かった。

 指示された通りにインスリン注射しないことが長期的に健康状態に悪影響を与えると考える患者は、欧米人が65%、日本人が49%と、日本人の方が少なかった。その一方、インスリン注射しないことことに罪悪感を覚える患者は欧米人が35%、日本人が55%と、日本人の方が多かった。

 また、意図的に指示通りでない注射を行っていた患者の割合は、日本人の方がやや少なかった。指示通りに注射しない理由としては、「低血糖を避けるため」と「血糖値が低かったため」がそれぞれ約4割と多かった。

 これらの結果について渥美氏は、「日本人患者で指示通りでない注射を行う率が低かった理由の1つとして、患者が過小申告している可能性を否めないことが、今回の調査から明らかになった」と語った。また、「患者に対しては、指示された通りに注射できなかった場合でも罪悪感を覚える必要はなく、よりよい血糖管理のためにはむしろ医療従事者に正確に伝えることが重要であることを強調し、医療従事者側もそうした患者心理を理解した上で診療にあたるべきだ」との見解を示した。

(日経メディカル別冊編集)