熊本大学大学院代謝内科学分野教授の荒木栄一氏

 BMIが同等ならアジア人は白人より内臓脂肪が多い。内臓脂肪はインスリン抵抗性に強く関与しており、アジア人の2型糖尿病の予防と治療において有用なターゲットになりうる――。9月12日から16日にリスボンで開催された欧州糖尿病学会(EASD2011)のシンポジウム「Diabetes: similarities and differences between East and West」で講演した熊本大学大学院代謝内科学分野教授の荒木栄一氏はこう指摘した。

 荒木氏はまず、アジアにおける肥満の頻度は低いものの、現在ではすでに糖尿病有病率が米国に匹敵するほど高くなっているとのデータを紹介。アジア人は、わずかな過体重でも糖尿病を発症しやすいことを指摘した。アジア人は同じBMIであっても白人より内臓脂肪蓄積量が多く、内臓脂肪はインスリン抵抗性と強く正相関する。同氏は「内臓脂肪がアジア人における糖尿病発症の大きな一因」との見方を示した。

 次に、内臓脂肪を減少させる生活習慣介入によって、血糖コントロールやインスリン抵抗性を改善した研究成果として、熊本県で「植木町国保ヘルスアップモデル事業」として行われた田原坂研究を紹介した。

 同研究では、健康診断を受けた2986例のうち、少なくとも次の1つ以上の条件(肥満:BMI≧25、高血圧:130mmHg≦SBP<160mmHgまたは85mm≦DBP<100mmHg、脂質異常:LDL-C≧3.63mmoL/LまたはTG≧1.69mmoL/L またはHDL-C<1.04mmoL/L[男性]、HDL-C<1.29mmoL/L[女性]、耐糖能異常:6.11mmoL/L≦空腹時血糖[FBG]<7.00mmoL/Lまたは5.9%≦HbA1c<6.5%または7.78mmoL/L≦75gOGTT試験の2時間血糖<11.11mmoL/L)に当てはまる417例から137例を登録した。

 その上で、全く介入を行わない対照群39例、4カ月間標準的な介入(7回にわたる生活改善のためのレクチャー)のみ行う標準群50例、4カ月の標準介入+さらに6カ月の介入(プロのトレーナーによる集団でのエクササイズ)を行う強化群48例に割り付け、介入終了時(介入開始より10カ月)1年後(同22カ月)、2年後(同34カ月)に効果を比較した。

 その結果、介入10カ月後には、標準、強化群ともにBMI、HDL-C、FBG、HbA1c、メタボリックシンドロームのリスク因子数の有意な改善を認め、2年後においてもBMIは有意に改善していた。

 荒木氏は、(1)集団指導による生活習慣介入は、メタボリックシンドロームを改善でき、その効果の一部は介入終了後2年間、維持される、(2)10カ月間の介入においては、標準群よりも強化群で効果が高い、(3)メタボリックシンドローム予防に対する生活習慣への介入効果は、おそらく内臓脂肪の減少によるインスリン感受性の改善による――と結論した。

 さらに同氏は、インスリン抵抗性の機序に注目した研究を紹介した。内臓脂肪の増加は、高血糖、ERストレス、酸化ストレス、FFA(遊離脂肪酸)、虚血、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)増加などのさまざまなストレスを引き起こす。これらのストレスは、ストレスキナーゼであるJNK、ASK1を活性化する。

 インスリンシグナル伝達には、インスリン受容体基質であるIRS-1のチロシンキナーゼによるリン酸化が重要だが、JNKによってIRS-1のセリン残基がリン酸化されると正常なリン酸化過程が阻害され、結果的にIRS1以降のシグナルが伝達されなくなる。これがインスリン抵抗性の要因となる。

 同氏らはまず、高脂肪食誘発糖尿病モデルマウスにおいて、このJNKを阻害する熱ショックタンパク質(Hsp)72を誘発し、インスリン抵抗性や糖代謝の改善を試みた。Hsp72誘発には、電流と熱を発生するMETと呼ぶ装置を用い、対照群、熱群、電流群、MET群における効果を比較した。

 その結果、MET群では体重変化はなかったが、腹部脂肪、インスリン抵抗性、JNK、炎症性サイトカインの低下と膵β細胞障害の改善が認められたという。

 Hsp 72を誘発する方法としてさらに、ゲラニルゲラニルアセトン(GGA)にも注目。同様の試験を行ったところ、体重、腹部脂肪、インスリン抵抗性、JNK、炎症性サイトカインの低下が認められた。

 METによる治療は、健常人とメタボリックシンドロームの患者で研究を進めており、健常人では炎症性サイトカイン低下を認めたのみで有害事象はなかったこと、メタボリックシンドローム患者では、体重、腹部脂肪、インスリン抵抗性、炎症性サイトカインなどが低下するという結果を得ている。

 これらの研究から荒木氏は、(1)METまたはGGAによってHsp72を誘導すると内臓脂肪、ストレスシグナル、炎症性サイトカイン、インスリン抵抗性が減少すること、(2)MET治療は膵β細胞をアポトーシスから保護すること、(3)MET治療は、糖ホメオスタシスとインスリン抵抗性を改善できる可能性があること――を指摘した。

 同氏らは、肥満の2型糖尿病患者についてもMETによる治療を試み、内臓脂肪蓄積量、FBG、HbA1c、HOMA-IR、炎症性サイトカインなどの低下といった効果を確認しており、近く研究成果の詳細を発表する予定という。荒木氏は、「Hsp 72は、メタボリックシンドロームと2型糖尿病の新たな治療戦略として期待できる。特に内臓脂肪が蓄積しているアジア人では、内臓脂肪が有効な治療ターゲットになる」として講演を結んだ。

(日経メディカル別冊編集)