米国The Brod GroupのMeryl Brod氏

 医学的介入や第三者の助けを必要としない「重篤でない低血糖」が、睡眠の質と量、翌日の仕事、日常生活に深刻な悪影響を及ぼすことが分かった。文献検索と、フォーカスグループ討議における患者70人の発言録、低血糖発作経験者1000人超に対するインターネット調査から明らかになったもので、米The Brod GroupのMeryl Brod氏が、9月12日から16日までリスボンで開催されている欧州糖尿病学会(EASD2011)で報告した。

 Brod氏らはまず、重篤でない夜間低血糖について、encompass productivity、well-being、daily function、quality of life、sleep quality、psychosocial factors、mortalityを検索語として、1995〜2010年に英で出版された文献を、PubMed、CINAHL、PschLit、EMBASEで検索した。

 抽出された47報のうち適切と考えられた32報から、重篤でない夜間低血糖によって、患者が疲労を感じること、翌日の仕事に影響があること、記憶が障害される可能性があること、気分に悪影響があること――などが示唆された。ただしこれらのデータの多くは睡眠研究における検討で得られたものであり、Brod氏らは、「患者の実生活への影響を知るには適切でない」と考えた。

 そこで同氏らは、重篤でない低血糖について話し合った米・英・仏の8つのフォーカスグループにおける議論から、計70人(男性37人、女性33人)の患者の発言について、グラウンデッド・セオリーアプローチに基づいて解析するとともに、米、英、仏、独で、重症でない夜間低血糖が個々人の生活や健康、糖尿病管理に及ぼす影響について、18歳以上を対象としたネット調査を実施した。

 フォーカスグループの議論では、睡眠障害が報告されたほか、翌日の状況についても、頭痛や遅延感覚、疲労・倦怠感、仕事への悪影響(仕事ができない、あるいはうまくいかない)などの訴えが目立った。患者の感情への影響としては、低血糖自体への恐怖や、「2度と目覚めることができないのではないか」といった怖れ、罪悪感、不安、低血糖を誰かに見られた場合のきまり悪さなども指摘されていた。

 ネット調査では、登録前の1カ月間に1回以上の重篤でない低血糖を経験していた2600人のうち、重症でない夜間低血糖を経験していた1086例について解析した。

 重篤でない夜間低血糖を経験した当夜の睡眠については、大部分の患者が全般的な睡眠の質に影響があったとした。約13%の患者は再度眠ることができなかった。眠りにつくことができた患者のうち2型糖尿病患者は、1型患者に比べ、眠るまでに平均20分多くの時間を要していた(1型:平均1.3時間、2型:平均1.7時間)。

 また、発作翌日には、全例が1-2回余分に自己血糖測定を行っていた。こうした行動は、1型の25.7%、2型の18.5%が1週間後まで続けていた。

 インスリン使用中の患者では、インスリンを減量するという行動がみられた(1型では1.9単位、2型では1.7単位。期間は1型が平均0.9日、2型は0.7日)。しかし、重篤でない夜間低血糖について医療従事者に相談したのは、1型では18.6%、2型では27.8%に過ぎなかった。

 翌日は、働いている患者の22.7%が遅刻したり終日勤務できなかったほか、31.8%が会議や作業を休んだり、任務を時間通りに終えることができなかったと答えた。また多くの患者が自動車運転をあきらめ、電車やバスを使っていた。

 これらの結果からBrod氏は、「重篤でない夜間低血糖によって、血糖自己測定回数が増え、睡眠が障害され、生産性が低下するといった大きな影響が認められた」と指摘した。

 同氏は、「調査の中で、患者は当初、重篤でない低血糖とは何かを理解できなかったことが分かった。医学的には重篤でなくても患者にとっては重大事だからだ」と述べた。そして、「まずは『重篤ではない』と呼ぶのをやめるべきかもしれない」と言う。

 そして、「患者の不安を軽減することが重要で、インスリン用量の適切な増減法など、低血糖が起こった場合の対処についてよく話し合ってほしい。もちろん、低血糖発現頻度のより少ない治療法も実現していくべきだ。本研究をきっかけに、重篤でない夜間低血糖発作が臨床的に重大な問題であることを認識してほしい」とまとめた。

(日経メディカル別冊編集)