奥羽大学薬学部の斉藤美恵子氏(右)と共同研究者である衛藤雅昭氏(左)

 よく噛んで食事をすることで、あまり噛まないで飲み込む“早食い”に比べ、食後の血中グルカゴン様ペプチドGLP-1)値とペプチドYYPYY)値が上昇することが、肥満の人でも確認された。これは、奥羽大学薬学部(福島県郡山市)の斉藤美恵子氏らが行った試験で明らかになったもので、9月12日から16日までリスボンで開催される欧州糖尿病学会(EASD2011)で、共同研究者である衛藤雅昭氏が発表した。同氏らの研究グループは、昨年の同学会で、健常人を対象にした同様の試験を行い、よく噛んで食事をした場合にGLP-1値とPYY値がより増大するという結果を発表していた。

 GLP-1は、小腸下部のL細胞から分泌され、血中グルコース値に応じてインスリン分泌を促進する。一方でPYYは、視床下部に働きかけて食欲を抑制することが知られている。そのため両者は、血糖値や中性脂肪、体重のコントロールに重要な役割を果たしていると考えられている。ところが、咀しゃく回数と食後の血中GLP-1値・PYY値に関する研究を発表したのは、同研究グループが初めてという。

 同研究グループは、BMIが25超の9人(男性5人、女性4人)を対象に試験を行った。被験者の平均年齢は40.7歳、平均のBMIは27.2、血糖値は99mg/dLだった。被験者は、12時間絶食後、翌朝に試験食を20分かけて食べ、食前と食後1時間の時点で、血中GLP-1値とPYY値の測定を行った。

 試験食は、パン、マーガリン、ゆで卵、蒸した野菜、バナナと牛乳で、蛋白質16%、脂肪32%、炭水化物52%を含む総カロリー630kcalのものだった。

 被験者は、一口分の食べ物を5回噛んで飲み込む方法と、一口分を30回噛む方法で、それぞれ別の日に試験食を食べた。斉藤氏によると、普通の速度で食べた場合、一口の咀しゃく回数はおよそ7〜8回で、5回の咀しゃくは、“早食い”のような食べ方だという。

 食前・食後の血中GLP-1値とPYY値について比較したところ、咀しゃく5回群では、血中PYY値は食前が35.8pg/mL、食後が41.3pg/mLへ上昇したのに対し、咀しゃく30回群では、血中PYY値は食前が35.7pg/mL、食後は65.9pg/mLへとより大幅に上昇し、食後血中PYY値は5回群より有意に高値だった(p<0.01)。

 血中GLP-1値でも同様で、咀しゃく5回群では、食前の4.6pmoL/Lから食後16.9pmoL/Lへ上昇したのに対し、咀しゃく30回群では食前5.1pmoL/Lから食後29.3pmoL/Lへとより大幅に上昇し、食後血中GLP-1値は5回群より有意に高値だった(p<0.01)。

 一方、食後の血糖値やインスリン値の上昇については、両群で有意差はなかった。

 発表後、会場からの、「なぜ咀しゃく回数を30回としたのか」との問いに対し、衛藤氏が「日本の厚生労働省が、肥満予防対策として一口30回噛むことを推奨している」と答えると、登壇した司会者は、「我々の国でも、祖母が子供や孫に対してゆっくり食べるように言ってきたが、具体的な数字は欠けていた。良いアドバイスをありがとう」と結び、会場の笑いを誘った。

 斉藤氏は、「次の試験は、糖尿病患者を対象に行い、同様な結果を得たい」と語った。

(日経メディカル別冊編集)