英オックスフォード大学のMaria Alva氏

 糖尿病がもたらす損失やその治療による利益を論じる際には、合併症が患者のQOLにおよぼすインパクトを正確に評価することが不可欠となる。そのリファレンスとして、UKPDSへの参加者に対して2002年に実施された横断調査のデータが広く利用されている。このほど英オックスフォード大学のMaria Alva氏(写真)らは、UKPDSのデータを対象に新たな解析を行い、これまでの知見をアップデートした。この研究結果は、9月20日から24日までスウェーデンのストックホルムで開催された第46回欧州糖尿病学会EASD2010)で発表された。

 UKPDS(1977〜97年)は、2型糖尿病患者に対する厳格な血糖コントロールの効果を検討したランドマーク的な研究であり、約5000例の患者に対し、20年間にわたる追跡がなされている。

 同研究では、追跡終了時(1996〜1997年)に1回、2003〜2007年に毎年1回(計5回)、QOLについて尋ねる質問票(EuroQoL;EQ-5D)による調査が実施されている。Alva氏らは、生存する患者全員に対し、計7回目となるQOL調査を実施し、その結果をまとめた。

 全7回の調査に対し、一度でも回答を寄せた患者は4267人にのぼった。平均回答回数は3.4回(最大7回)であったが、ほぼ半数(49%)は1回のみの回答者であった。全7回の平均EQ-5Dスコアは0.69(完全に健康な場合は1、死亡は0となる)であったが、調査を重ねるごとにスコアは低下していた(第1回:0.77から第7回:0.65へ減少)。

 4267人のうち、6つの主要な合併症イベントである急性心筋梗塞(MI)、虚血性心疾患(IHD)、脳卒中、心不全、下肢切断、片目の失明を発症した患者は、それぞれ323人、356人、159人、134人、65人、184人であった。

 これらの合併症を発症した患者の平均EQ-5Dスコアは、発症しなかった患者よりいずれも有意に低値を示し(すべてp<0.01)、各合併症と平均EQ-5Dスコアの間には、いずれも有意な負の相関が認められた(1年以内のMI発症、1年以上前のMI発症、片眼の失明はp<0.05、IHD、脳卒中、心不全、下肢切断はp<0.01)。

 しかし、年月の経過とともに複数の合併症をもつ患者が増えるため、それぞれの合併症を持つグループは、調査を受けた時点によってそれぞれが保有する合併症が大きく異なることになる。そこでAlva氏らは、時間の経過によって増える合併症については固定して、個別の合併症のQOLに対する効果のみを評価する手法を用いて、データの再解析を行った。

 その結果、通常の最小二乗法による解析では有意であったMI、IHD、片眼の失明とQOLの相関は消失し、脳卒中と心不全、下肢切断の3つのみにおいてQOLとの有意な相関が認められた。

 これらの結果から、糖尿病合併症の中でも、脳卒中、心不全、下肢切断の3つは、10年におよぶ長期的な調査においても、これらの合併症のない患者に比べてQOLを低下させ続ける要因であると考えられた。

(日経メディカル別冊編集)