ミネソタ大学Masonic Cancer CenterのDaniel A.Mulrooney氏

 幼児期や思春期に癌を経験した小児癌経験者は、その健康な兄弟よりも早期に心疾患に罹患する率が5〜10倍高い。特に、アントラサイクリン系抗癌剤による治療や高線量の心臓への放射線療法を行った患者では、他の治療内容を受けた患者に比べ、うっ血性心不全心筋梗塞のリスクが増大する──。これは、Childhood Cancer Survivor Ssudy(CCSS研究)が1万4358人の小児癌経験者を対象に行った世界で最も大規模なコホート研究から明らかになったもので、5月30日から6月3日まで、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、ミネソタ大学Masonic Cancer CenterのDaniel A.Mulrooney氏が発表した。

 CCSS研究は、小児癌治療による長期的な心血管系の副作用について、リスク因子や頻度を明確にするため、多施設後ろ向きコホート研究を行った。比較対象は小児癌患者の健康な兄弟とした。

 対象は、1970〜86年に小児癌の診断を受けた21歳以下の患者で、診断から5年以上経過した1万4358人(26施設)。癌種は白血病が最も多く33.8%、ほかには、中枢神経系腫瘍(12.5%)、ホジキンリンパ腫(13.0%)、非ホジキンリンパ腫(7.7%)、腎腫瘍(9.2%)、神経芽腫(7.0%)、軟組織肉腫(8.5%)、骨腫瘍(8.2%)の8種だった。

 性別は、男性53.3%、女性46.3%。調査時の年齢は20歳代、30歳代が多かった(27.6%、25.3%)。小児癌診断時の平均年齢は7.8歳(0-20)で、追跡時の平均は27.5歳(8-51)だった。1995年から96年にカルテから基本調査を行い、2000年にフォローアップの調査を行った。

 比較するグループは、小児癌経験者の兄弟である3899人(男48.1%、女51.9% 、年齢:20歳以下/20-29/30-39/40-49/50-59歳:10.3%、20.2%、23.9%、9.8%、0.9%)。相対危険度(RR)を、年齢、性別、人種、収入、教育歴、喫煙歴などで調整し、分析した。

 その結果、うっ血性心不全(244人)や心臓弁膜症(232人)、心膜疾患(181人)は小児癌経験者の1.5%前後に発症していた。各種心疾患の罹患率は健康な兄弟に比べ高く、相対危険度はアテローム血栓症で10.3倍、pericardial diseaseが6.3倍、うっ血性心不全は5.9倍、心筋梗塞5.0倍、心臓弁膜症4.8倍だった。

 また、受けた癌治療の内容によっても循環器に与える影響は大きく違うことが分かった。250mg以上のアントラサイクリン系抗癌剤による治療を受けた患者と心臓への高線量の放射線治療を行った患者では、これらの治療を行っていない小児癌経験者に比べ、心疾患の相対危険度は約2倍から5倍となった。特に突出して高かったのは、アントラサイクリン系抗癌剤においては、うっ血性心不全のRRは4.1倍に、放射線治療ではアテローム血栓症のRRが5.3倍だった。

 各疾患ごとに、リスク因子との相関について多変量解析を行うと、うっ血性心不全の相対危険度は女性で高く(p<0.05)、放射線治療の線量(15Gy以上でp<0.05)やアントラサイクリンの量に比例し、癌診断時の年齢は低いほどリスクが高かった。心臓弁膜症でも同様の傾向がみられた。

 また、心筋梗塞の場合、RRは女性で有意に低く(p<0.05)、放射線治療(15Gy以上でp<0.05)で有意に高く、アントラサイクリン系抗癌剤との関連は薄かった。

 小児癌診断から30年後の心疾患の累積罹患率の報告をみると、うっ血性心不全が4.1%、心筋梗塞1.3%、アテローム血栓症が2.1%、心膜疾患3.0%、心臓弁膜症4.0%。小児癌治療の循環器への影響は、診断から年単位で起こっていくことが分かった。

 Mulrooney氏は、「小児癌経験者では、遅延性の心血管疾患を早くつかまえるために、癌治療後も定期的なモニタリングが必要だろう。患者や家族などに対してこうした現状を教育していくことも重要だ」と話す。

 さらに、「どんな診断を受けたかによる治療と、それが循環器に与える影響との関連は、今後のさらなる研究によって明らかになるだろう」とまとめた。