福岡大学心臓・血管内科学講座の八尋英二氏

 新たに作成されたアポリポ蛋白A-I(apoA-I)ペプチドミメティクスの直接投与は、心筋梗塞後の心突然死予防に対する新たな治療戦略として有用かもしれない――。心筋梗塞モデルマウスにおいて抗炎症性血管形成性に作用し、心保護的な働きを有することが示されたことを踏まえたもの。福岡大学心臓・血管内科学講座の八尋英二氏らが、11月7日までロサンゼルスで開催されていた第85回米国心臓協会・学術集会(AHA2012)で発表した。

 HDLは脂質に富む組織からのコレステロール引き抜きや炎症などを制御することで、心血管疾患を予防すると考えられている。HDLの主要な構成蛋白であるapoA-Iは、近年、その改変体であるapoA-I Milanoが開発された。リコンビナントHDL(rHDL)として動物実験などで使用され始め、apoA-I Milanoはアテローム硬化性プラークを退縮させることが報告されている。

 しかし、rHDLはいまだに臨床応用がなされておらず、HDLの作用とされている心血管疾患予防に、apoA-Iが実際に寄与するのかどうかは明らかになっていない。そこで、同研究グループが新規に作成したapoA-Iペプチドミメティクス(Fukuoka apoA-I mimetic peptide:FAMP)の直接投与の有用性を心筋梗塞モデルマウスで検討した。FAMPはapoA-Iの構造を一部改変したペプチドで、24のアミノ酸で構成され、リン脂質は含まず、コレステロール輸送蛋白であるABCA1に結合する。

 検討に用いたのは、8〜10週齢で体重25〜28gの雄性C57BI/6Jマウス33匹。冠動脈の左前下行枝を結紮し、心筋梗塞を発症させた。これらのモデルマウスをFAMP 10mg/kg/300μL投与群(FAMP10群、11匹)、FAMP 50mg/kg/300μL投与群(FAMP50群、9匹)、生理食塩水のみを投与する群(対照群、13匹)の3群に分け、結紮1日後、3日後、5日後にそれぞれの試験薬を腹腔内投与し、7日後に屠殺した。

 心拍数、血圧、総コレステロール、HDLコレステロールに関しては、3群間で差はなかった。HE染色による心筋梗塞領域の比較でも面積に差は見られなかった。また、試験期間中に死亡したマウスは、FAMP50群では9匹中1匹のみ、FAMP10群では11匹中3匹、対照群では13匹中7匹だった。死亡したマウスを解剖したところ、対照群の1匹を除き、すべて心破裂を認めた。

 梗塞後のmRNAを定量したところ、FAMP10群ではeNOSとGata4、ANFが対照に比べて有意に高値で(すべてP<0.05)、特にANFの上昇は著明だった。FAMP50群でもそれら3指標が対照に比べ高かった。また、FAMP50群では、CTGFが対照に比べ有意に高かったが(P<0.05)、MCP1は有意に低かった(P<0.05)。

 心破裂の理由を検証するため、その直前のmRNA発現量の定量を試みた。上記と同様に3群に割り付け、対照群の1匹が心破裂で死亡した時期が試験開始4日目であったことから、試験薬の投与を結紮後1日目と3日目のみにし、4日目にマウスを屠殺した。

 その結果、急性期においては、FAMPを投与した2群のMCP1とIL6は対照に比べて低く、特にFAMP10群のMCP1は有意に低値だった(P<0.05)。一方、VEGFR2はFAMP10群で高値だったが、FAMP50群と対照群はほぼ同レベルだった。
 
 八尋氏は一連の結果を踏まえ「病理学的な検討から、われわれが新規に開発したapoA-IペプチドミメティクスであるFAMPは、抗炎症性、血管形成性に働き、心保護的な作用を有すると考えられる。FAMPは心筋梗塞後の心突然死予防において、新たな治療法になり得るかもしれない」と語った。

(日経メディカル別冊編集)