米University of LouisvilleのRoberto Bolli氏

 虚血性心筋症による心不全患者に対し、患者自身の心臓組織をもとに分離・培養した心筋幹細胞を梗塞部位に注入した結果、細胞注入後24カ月時点での左室駆出率(EF)とNYHA心機能分類が有意に改善したほか、梗塞部位が有意に縮小したことが報告された。心筋幹細胞を用いた臨床試験「SCIPIO Trial」の24カ月の追跡結果について、米University of LouisvilleのRoberto Bolli氏が、11月3日から7日までロサンゼルスで開催された第85回米国心臓協会・学術集会AHA2012)で発表した。

 同試験は、心筋幹細胞を用いた無作為化オープンラベルのフェーズ1試験。心血管疾患に対する再生医療技術としては、骨格筋細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞を用いた方法がこれまでに報告されているが、心筋幹細胞を用いた臨床試験としては世界初となるという。昨年には、12カ月の追跡結果を発表しており、対照群と比べ、心筋幹細胞を注入した群(CSC注入群)ではEFが有意に改善したことを報告した。

 対象は、2009年3月から2011年5月までに登録した貫壁性心筋梗塞既往者で、EFが40%以下、登録から2週間以内に冠動脈バイパス術(CABG)を実施する予定の患者とした。

 登録から2週以内にCABGを行い、その際に採取した患者の心臓組織からc-kit陽性、lineage陰性(分化した細胞に特徴的な抗原を持たない)の心筋幹細胞を分離し、細胞培養を行う。その後、3〜5カ月以内にカテーテルを用いて冠動脈経由で心筋梗塞部位に心筋幹細胞を注入する。心筋幹細胞注入後は24カ月間追跡調査を行った。評価は、心臓MRI、2D・3Dエコー、肝機能検査、ミネソタ心不全質問表、NYHA心機能分類などを用いた。

 CSC注入群は20人、対照群は13人だった。

 CSC注入24カ月後のEFを3Dエコーで評価した結果、対照群(5人)では有意な変化がなかったのに対し、CSC注入群(12人)ではベースライン時から有意に改善した(P=0.001)。CSC注入群のベースライン時のEFは29.7%だったのに対し、24カ月後は41.7%だった。

 次に、3Dエコーで左室壁運動スコア(WMSI)を評価したところ、対照群では試験開始前のスコアと比べ有意な変化は見られなかったのに対し、CSC注入群では4カ月後、12カ月後、24カ月後のWMSIに有意差が見られ、心機能の改善が確認された。

 心臓の領域別にCSC注入4カ月後、12カ月後、24カ月後のEF変化量をMRI画像を元に算出した結果、梗塞セグメント、運動障害セグメント、機能セグメントいずれにおいても、経時的に有意な改善が確認された。CSC注入24カ月後のEF変化量は、梗塞セグメントが18.9%、運動障害セグメントが49.9%、機能セグメントが57.0%だった。

 梗塞部位の組織量は、経時的に有意に減少した。ベースライン時の梗塞部位サイズは34.9gだったが、CSC注入4カ月後の梗塞部位サイズの変化量は-38.2%、12カ月後には−43.2%、24カ月後は−46.4%だった。一方、生存組織量についてはCSC注入後に増加する傾向が確認されたものの、有意差は見られなかった。

 さらに、CSC注入24カ月後のNYHA心機能分類の変化量を見ると、対照群は−0.17±0.31と有意差がなかったのに対し(P=0.611)、CSC注入群は−0.92±0.24で有意差が確認された(P=0.002)。ミネソタ心不全質問票による評価でも同様の傾向が確認された。

 CSC注入による重篤な有害事象は確認されなかった。

 Bolli氏はこれらの結果から、「虚血性心筋症に対し、c-kit陽性の心筋幹細胞を注入するという手法は、安全に施行可能だったほか、梗塞部位を縮小し、左心室収縮機能やQOLを改善した。こうした効果は、CSC注入後に時間経過とともに増加し、少なくとも2年間は続くことが示された」と語った。

(日経メディカル別冊編集)