カナダMcMaster大学のC Demers氏

 高齢の心不全患者の場合、退院時に軽度認知症(MCI)や認知症を伴わない認知機能障害(CIND)といった軽度認知機能障害(MCD)の有病率が高いことが示された。また、それらの認知障害に気づかず退院させた場合、患者自身が行うセルフケアの維持や管理が不十分となり、早期の再入院につながる可能性がある。カナダMcMaster大学のC Demers氏らが、11月3日から7日までロサンゼルスで開催されていた第85回米国心臓協会・学術集会AHA2012)で発表した。

 心不全は、北米における高齢者の入院理由として最も高い割合を占める。また、再入院率も高く、入院と治療によって大きな経済的負担をもたらす。心不全の場合、患者自身によるセルフケアが重要だが、患者はセルフケアを継続しないことが多い。こうしたセルフケアを十分に行わない人の中には、未検出のMCDがある可能性が考えられる。今回Demers氏らは、高齢心不全患者において、退院時のMCDの有無が退院後1〜3カ月以内にセルフケアと臨床転帰に及ぼす影響について検討した。

 対象は、ボストン心不全基準によって診断された60歳以上の心不全患者72例(年齢78歳、男性47%)とした。患者背景は、左室駆出率47%、虚血性心疾患41例、糖尿病31例、高血圧61例だった。介護者不在の例、退院時にConfusion Assessment Method(CAM)によってせん妄と診断された例、認知症の前臨床診断がされた例などは除外した。

 MCDの定義としては、MCI、CIND、無症候性せん妄(SSD)もしくは回復可能な認知障害(RCD)を、1つ以上有する場合とした。MCDの判定には、モントリオール認知評価(MoCA)を使用した。MoCAは、図形模写、時計描画、命名、即時想起、文の復唱、抽象的思考、遅延再生などの項目を評価する10分程度のアンケートで、30点中26点未満の場合にMCDと判定した。

 結果MCDと判断されたのは、ベースラインでは72例中60例(80%)、1カ月後は61例中47例(77%)、3カ月後は58例中45例(78%)で、有病率は高かった。線形混合モデルによって分析すると、変化係数は0.50(95%信頼区間[CI]:0.14-0.85、P=0.005)と有意差を認めた。

 70点超で適切とするセルフケア指標を見ると、ベースライン時の維持度は平均62点、管理度は46点、自信度は63点だった。1カ月後は、維持度71点、管理度56点、自信度66点。3カ月後は、維持度70点、管理度53点、自信度63点だった。一貫して管理度が特に低かった。

 これらの結果を線形混合モデルによって分析すると、維持度は変化係数2.29(95%CI:0.81-3.71、P=0.002)と、3カ月後に不適切となるリスクが有意に高かった。管理度の変化係数は2.44(95%CI:−0.75-5.90、P=0.141)、自信度の変化係数は−0.18(95%CI:−2.09-1.75、P=0.838)で、有意差は認められなかった。

 これらの結果からDemers氏は、「高齢心不全患者は退院時のMCD有病率が高かった。認知障害を検出しないまま高齢心不全患者を退院させると、セルフケアの維持や管理に影響し、早期の再入院につながる可能性がある」と考察した。

(日経メディカル別冊編集)