米Duke University Medical CenterのWei Jiang氏

 安定冠動脈疾患のうち、ストレス誘因の心筋虚血MSIMI)患者に対し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるエスシタロプラムを6週間投与した結果、MSIMI症状を改善できる可能性が報告された。REMIT Trialの成果で、11月7日までロサンゼルスで開催されていた第85回米国心臓協会・学術集会(AHA2012)において、米Duke University Medical CenterのWei Jiang氏が発表した。

 ストレスが誘因するMSIMIは、冠動脈疾患患者のおよそ7割を占めるとされている。安定冠動脈疾患患者のうち、MSIMI患者とそれ以外の心筋虚血患者の心血管疾患リスク因子に違いはないが、MSIMIは予後不良因子であることが知られている。また、MSIMIに対する有効な薬物療法は報告されていない。

 そこでJiang氏らは、安定冠動脈疾患のうちMSIMI患者を対象に、SSRIであるエスシタロプラムを投与し、その安全性と有効性を検討した。安定冠動脈疾患患者に対し、精神・身体ストレス試験を行い、MSIMI患者と診断された患者127人を、エスシタロプラム投与群(64人)とプラセボ群(63人)に1:1に割り付けた。エスシタロプラムは1日5mgから開始し、20mgまで増量可能とした。

 主要評価項目はMSIMI患者数の減少、副次評価項目は精神・身体ストレス試験中の心血管反応、血小板数、セロトニン機能、うつ症状、不安症、敵意、社会的ストレスの知覚とした。

 投与前と、投与開始6週間後に、精神・身体ストレス試験と血小板検査を実施した。精神ストレス試験は3つのタスク(mental arithmetic task、mirror tracing task、public speaking with anger recall)を用い、身体ストレスはトレッドミル運動で評価した。それぞれのタスクの間には6分間の休憩をはさんだ。MSIMIの診断は、ストレス試験時に、心筋壁運動の異常、左室駆出率が8%以上低下、ST波異常のいずれか1つ以上が観察された場合とした。

 それぞれの群の患者背景は、平均年齢が61〜66歳、白人が74〜82%、女性が17〜23%、喫煙率は12〜20%だった。治療内容ではアスピリンが95〜96%、その他の抗血小板薬が44〜46%、ACE阻害薬が61〜63%、ARBが15〜17%、β遮断薬が85〜87%、Ca拮抗薬が17〜22%に投与されていた。治療完遂率は、エスシタロプラム投与群が87.5%、プラセボ群が88.9%だった。

 投与6週間後のMSIMI患者の減少割合は、プラセボ群が14.3%、エスシタロプラム投与群が29.7%だった。調整オッズ比は2.328(95%信頼区間:0.91-5.96)と有意差は確認されなかった。

 ITT解析で年齢、性別、患者背景を調整し、副次評価項目を検討したところ、エスシタロプラム投与群は、プラセボ群と比べ、精神ストレス試験時に収縮期血圧値、心拍数、心筋仕事量の減少が大きく、両群間に有意差が見られた。また、Bmax値、5-HT輸送体(5-HTT)の変化量も両群間に有意差が見られた。一方、うつの自己評価尺度であるBDI、敵意、不安の指標、3つの精神ストレス試験による負の影響については、両群間に有意差は認められなかった。

 さらに有害事象について調べると、エスシタロプラム投与群の有害事象発現率は71.88%で、プラセボ群の44.44%と比べ有意に高かった(P=0.002)。エスシタロプラム投与群の主な有害事象は、疲弊感(29.69%)、便秘(28.13%)、中枢神経症状(26.56%)、性機能障害(15.63%)などだった。

 これらの結果からJiang氏は、「6週間のエスシタロプラム投与により、安定冠動脈疾患患者のMSIMI症状を抑制できたほか、心血管リスクである精神・身体マーカーについても改善した。中枢または末梢のセロトニン作動性神経は、MSIMIを改善する機構であることが示唆される」と語った。今後は、エスシタロプラムを6週間またはそれよりも長期間投与することで、冠動脈疾患やそのほかの心血管疾患の予後を改善するかについて検討する必要があると指摘した。

(日経メディカル別冊編集)

■訂正
 11月28日に以下の訂正をしました。
・第7段落の冒頭に「投与6週間後のMSIMI患者の割合は」とありましたが、正しくは「投与6週間後のMSIMI患者の減少割合は」でした。お詫びして訂正いたします。