ノルウェーBergen大学のDennis Wt Nilsen氏

 エイコサペンタエン酸EPA)やドコサヘキサエン酸DHA)といった長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸の多量摂取は、冠動脈性疾患が疑われる糖尿病患者の急性心筋梗塞(AMI)リスクを低下させるが、非糖尿病患者においてはAMIリスクが増加することが示された。ノルウェーBergen大学のDennis Wt Nilsen氏らが、11月3日からロサンゼルスで開催中の第85回米国心臓協会・学術集会AHA2012)で発表した。

 長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取は、死亡率や心血管疾患のリスクを低下する。特にトリグリセリド高値の患者においては、冠動脈性心疾患の二次予防のために長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸を大量摂取することがAHAのガイドラインでも推奨されている。長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取は、インスリン抵抗性を有する心不全患者において入院率や死亡率を低減する、あるいは左心室収縮機能を改善する、血漿トリグリセリドを減少するといった有益な効果を示すことも報告されている。

 しかし、Nilsen氏らは以前、全冠動脈性疾患リスクは減少しなかったことを報告している。そこで今回は、糖代謝障害もしくは糖尿病患者におけるAMIリスクが食事による長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量によって受ける影響を検討し、血清トリグリセリド値との関連を調査した。

 対象は、2000〜2004年の間に冠動脈性心疾患が疑われ、冠動脈造影を行った2378人(年齢62歳、男性率80%)とし、2006年12月末まで追跡した。対象には、ノルウェー西部のビタミンB介入試験(WENBIT)の参加者が含まれている。対象を、HbA1c値が5.7%未満の非糖尿病群(1013人、うち男性801人、平均年齢61.0歳)、HbA1c値が5.7%以上の前糖尿病状態群(1047人、うち男性853人、平均年齢61.8歳)、糖尿病群(318人、うち男性257人、平均年齢63.1歳)に分類した。

 患者背景としては、トリグリセリドの中央値は、非糖尿病群が1.73mmol/L、前糖尿病状態群が1.76mmol/L、糖尿病群が2.173mmol/Lと糖尿病群で有意に高かった(P<0.001)。ほかに糖尿病群で有意に高かったのは、血糖値、HbA1c値、ACE阻害薬またはARB使用率(いずれもP<0.001)、左室駆出率50%未満率(P=0.006)、一価不飽和脂肪の摂取量(P=0.003)だった。1日当たりの長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHA、ドコサペンタエン酸)の摂取量は、非糖尿病群で1.31g、前糖尿病状態群で1.28g、糖尿病群で1.32gと、有意差は認められなかった。1日当たりの摂取量は、登録時に行った食物頻度アンケートから算出した前年の平均摂取量に基づいて推定した。

 各群を、長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量に応じて人数を3分位値で層別し、性別、年齢、現在喫煙の有無、空腹の有無、冠動脈性疾患、左室駆出分画率、トリグリセリド値、ベースライン時の急性冠症候群既往、ベースライン時のPCI施行の有無、ベースライン時の冠動脈バイパス移植手術の既往、身体活動状況、葉酸もしくはビタミンB6の投与を共変数として調整を行った。

 糖尿病群の最低3分位層を基準とすると、中間3分位層ではAMIリスクの多変量ハザード比が0.49(95%信頼区間[CI]:0.20-0.1.22)、最高3分位層では0.34(95%CI:0.14-0.82)となり、長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量が増加すると有意にAMIリスクが減少する傾向が認められた(P for trend=0.008)。

 一方、非糖尿病患者群においては、中間3分位の多変量ハザード比は0.98(95%CI:0.48-2.01)だったが、最高3分位層の多変量ハザード比は1.97(95%CI:1.05-3.67)と、有意にリスクが増加した(P for trend=0.02)。

 前糖尿病状態群においてはリスクとの関連は見られなかった。前述のトリグリセリド中央値によってリスクを推定すると、糖尿病患者と非糖尿病患者の傾向がより強化された。

 これらの結果からNilsen氏は、「長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸の多量摂取は、冠動脈疾患が疑われる糖尿病患者ではAMIリスクの低下と関連するが、非糖尿病患者においてはAMIリスク増加と関連することが示された。なおこの傾向は、トリグリセリド高値の患者の場合、より顕著に表れた」と結論した。

(日経メディカル別冊編集)