米国Mount Sinai School of MedicineのVenkatesh Mani氏

 2001年9月11日の米国同時多発テロ事件の時に世界貿易センター(WTC)ビル崩壊現場(グラウンド・ゼロ)で作業に従事した公務職員のうち、WTCビル崩壊時に現場にいて大量の粒子状物質(PM)に曝露された人は、13日以後に作業した人よりも動脈硬化プロファイルが悪化し、動脈硬化が進展していることが示された。フロリダ州オーランドで開催された第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)で、米国Mount Sinai School of MedicineのVenkatesh Mani氏らが発表した。

 Mani氏らの研究グループは、テロ事件直後にグラウンド・ゼロで作業に従事した警察官、消防士、軍人などの公務職員の健康状態の追跡調査を2007年以後行っており、今回の調査もその一環。

 WTCビル崩壊時には約4万人がグラウンド・ゼロや瓦礫処理場で作業したが、その際、大気中にセメント粉塵、グラスファイバー、アスベスト、鉛、ポリ塩化ビフェニル(PCB)などのPMが数千トン放出され、曝露されたと考えられる。大量のPM曝露は心血管イベントのリスクを高めることが最近報告されている。

 Mani氏らは、グラウンド・ゼロ現場作業者31人(男性28人、女性3人)の動脈硬化プロファイルを、ダイナミック造影MRI(DCE-MRI)と末梢動脈トノグラフィー(PAT)という2種類の手法を用いて評価した。今回、DCE-MRIとPATが、PM曝露が多いグループと少ないグループの動脈硬化プロファイルの違いを評価可能であるという仮定を立て、その評価結果を発表した。

 DCE-MRIは、動脈硬化のプロセスで起こるプラークにおける血管新生を造影剤の取り込みによって評価する。不安定プラークには血管新生が認められ、この血管新生が出血などの原因となる可能性が示唆されている。一方、PATは、駆血開放後の末梢動脈血流の変化を測定することにより、血管内皮機能の指標となる血管反応性を評価する手法だ。

 被験者はPM曝露量の違いによって高曝露群と低曝露群の2群に分けた。高曝露群は、9月11日午前中に現場に到着し、WTCビルの崩壊の場におり、粉塵雲と呼ばれる極めて大量のPMに曝露された人とし、低曝露群は9月13日以後に到着した人とした。

 患者背景について、性別、喫煙歴、糖尿病や高血圧の合併率、冠動脈疾患の家族歴、冠動脈カルシウムスコア(75パーセンタイル以上)に、高曝露群、低曝露群の間に差は見られなかった。

 MRIによる評価では、壁面積、総血管面積、内腔面積、壁厚といった形態学的な指標に関して高曝露群と低曝露群に違いはみられなかった。しかし、DCE-MRIによる造影剤取り込みの7分間のAUC(曲線下面積)は、高曝露群2.65±0.63、低曝露群1.88±0.69で、高曝露群が有意に大きく(P<0.016)、高曝露群でプラークにおける血管新生が増加していることが示された。

 PATによる評価でも、高曝露群1.70±0.23、低曝露群1.94±0.38と、高曝露群が有意に低く(P=0.038)、高曝露群で内皮機能が低下していることが示された。

 回帰モデルを用いた分析では、DCE-MRIのAUCと有意に関連する独立した因子は、PM高曝露、CRP>3.0および総コレステロールであることが示された(いずれもP<0.026)。

 Mani氏は以上の結果から、「短期間のうちに極めて大量のPMに曝露されたグラウンド・ゼロ現場作業者において、PM曝露は内皮機能を低下させ、プラークにおける血管新生を増加させることにより、動脈硬化プロファイルを悪化させた」と結論した。

 同氏によると、PM曝露による心血管イベント増加の機序はまだ明らかではないが、動脈硬化の進展のほか、全身の炎症状態、自律神経失調、血管コンプライアンスの変化、心臓の構造変化などが考えられるという。

(日経メディカル別冊編集)