福井心臓血圧センター福井循環器病院の村上達明氏

 2型糖尿病治療薬ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬のシタグリプチンが、2型糖尿病患者の動脈硬化の進展を、糖代謝改善とは独立した作用で抑制する可能性が報告された。福井心臓血圧センター福井循環器病院の村上達明氏が、フロリダ州オーランドで開催された第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)で発表した。

 村上氏らは、血管内超音波法により、上腕動脈における一過性の遮断後の血流を評価する血流依存性血管拡張反応(FMD:Flow Mediated Dilation)が4%未満の血管内皮障害を有する患者群は、FMDが8%以上の拡張反応良好群やFMD4%以上8%未満の境界群に比べて予後不良であることを、2001年のAHAで発表している。

 そこで今回、シタグリプチンが2型糖尿病におけるアテローム硬化進展を抑制し得るかどうかについて、FMDをサロゲートマーカーとして検討した。

 対象は、安定冠動脈疾患を有する2型糖尿病患者24例。シタグリプチン50mg/日の投与群12例と、シタグリプチンを投与せずに既存治療で管理する対照群12例に無作為割り付けし、4カ月間フォローアップした。

 その結果、シタグリプチン非投与群では、血糖値、HbA1c、血中インスリン値、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセライド(TG)、HDLコレステロール(HDL-C)のいずれも、ベースラインと4カ月後で有意な変化を認めなかった。

 一方、シタグリプチン投与群では、血中インスリン値には変化を認めなかったが、血糖値は209±28mg/dLから148±29 mg/dLへ、HbA1cは7.6±1.1%から7.0±1.2%へ、LDL-Cは126±21 mg/dLから116±19 mg/dLへ、TGは132±62 mg/dLから116±42mg/dLへ、それぞれ有意に低下した(すべてP<0.05)。またHDL-Cは45±12 mg/dLから48±10 mg/dLに有意に増加した(P≦0.05)。心拍と血圧値には、ベースラインと4カ月後では有意な変化はみられなかった。

 FMDは、シタグリプチン投与群では3.8±1.9%から6.7±2.7%に上昇し、有意な改善が示されたが(P<0.01)、非投与群ではベースラインの4.1±1.9%から4.2±2.4%となり、有意な変化は認めなかった。一方、ニトログリセリン舌下投与後の血管内皮非依存性血管拡張反応では、両群ともに有意な変化はなかった。脈波伝播速度(PWV)は、シタグリプチン投与群では1789±235cm/sから1693±256cm/sに有意に低下したが(P=0.03)、非投与群では有意な変化を認めなかった。

 シタグリプチン投与によるFMDとPWVの改善が血糖値低下による効果である可能性を想定し、シタグリプチン投与群12例を、4カ月後のHbA1cの低下が0.5%以上のレスポンダー群(7例)と0.5%未満のノンレスポンダー群(5例)に層別化し、両群のFMDの変化を比較した。その結果、レスポンダー群、ノンレスポンダー群ともに、FMDは同等に改善されており、シタグリプチンのFMDに対する作用は、糖代謝改善とは独立した作用であることが示唆された。同様に、PWV もレスポンダー群とノンレスポンダー群ともに同等に低下していることが確認され、シタグリプチンのPWV低下作用も糖代謝改善とは独立した作用であると考えられた。

 村上氏は以上の結果を踏まえ、「シタグリプチンは予後不良が予測される4%未満のFMDを、糖代謝改善とは独立した作用で、心拍や血圧に影響を与えることなく7%近くまで改善し、予後改善にも寄与する可能性が示唆された。したがって、2型糖尿病でFMD4%未満の動脈硬化進展例では、優先されるべき治療薬と考えられる。さらに脂質代謝も改善する可能性が示され、特に既存のインスリン抵抗性改善薬にはあまり期待できないLDL-Cの低下作用も示したことは注目される」とし、「今後は、本検討で示された多面的な作用が、DPP-4阻害薬全体に期待できるクラスエフェクトなのか、シタグリプチン固有の特性なのか、検討を重ねる必要がある」と総括した。

(日経メディカル別冊編集)