カナダSt. Michael's HospitalのKim A. Connelly氏

 糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬のシタグリプチンが、糖尿病合併心筋梗塞の予後における左室拡張機能の低下と左室肥大を改善する可能性が報告された。フロリダ州オーランドで開催された米国心臓協会・学術集会(AHA2011)で、カナダSt. Michael's HospitalのKim A. Connelly氏らが報告したもの。

 糖尿病を合併していると心筋梗塞後の心不全リスクが倍増し、心臓の微小血管系障害につながることが示唆されている。微小血管系の修復は、SDF-1(stromal cell-derived factor 1)応答性の血管内皮前駆細胞(EPC)の遊走によって調整される。心筋梗塞において、SDF-1αの局所投与が心臓の収縮機能を改善し、心筋細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている。

 このSDF-1は生体内酵素のDipeptidyl Peptidase 4(DPP-4)により速やかに分解される。シタグリプチン、ビルダグリプチン、saxagliptinなどのDPP-4阻害薬はGLP-1の血中濃度を上昇させてインスリン分泌を促進しHbA1cを低下させるため、糖尿病治療薬として知られているが、SDF-1に対する作用を介した心血管系への影響については目が向けられてこなかった。

 そこでConnelly氏らは動物モデルを用い、DPP-4阻害薬のシタグリプチンが心臓機能などに与える影響を検討した。初めに、6週齢のフィッシャー・ラット27匹にストレプトゾトシン(STZ)を2週間投与して糖尿病を誘発させたあと、シタグリプチン300mg/kg/日を経管栄養とともに投与する群9匹と、経管栄養のみの対照群18匹に無作為割り付けした。

 2週間後、シタグリプチン投与群(9匹)と、対照群中10匹の左冠動脈前下行肢を実験的に結紮して心筋梗塞を誘発。対照群の残り8匹には偽処置を施行した。結紮2日後、心エコー法により心筋梗塞のサイズと長軸方向のコンポーネントを観察し、左室機能の変化を評価した。

 結紮6週後には、心エコー法により左室機能の変化を評価し、圧力・容積-ループ解析(Pressure volume loops analysis)による心機能の評価と、組織学的・分子生物学的解析により、心筋細胞の肥大化や毛細血管密度を評価した。

 その結果、結紮2日後に心エコー法で評価した梗塞サイズと左室機能の低下度については、3群間に差はなかった。しかし結紮6週後の血糖値は、偽処置群の27.6±0.57 mmol/L、シタグリプチン非投与群の27.6±0.58 mmol/Lに対して、シタグリプチン投与群では26.0±0.6 mmol/Lと有意な低下が示された(P<0.05)。

 肺重量/体重比、心拍、収縮期末圧は、シタグリプチン投与群と非投与群で同等だったが、それぞれ偽処置群に比べて低値を示した。拡張期末圧もシタグリプチン投与群と非投与群では同等だったが、それぞれ偽処置群に比べて高値を示した。

 一方、左室重量/体重比(mg/g)は、シタグリプチン投与群(2.2±0.04)と非投与群(2.5±0.1)が、それぞれ偽処置群(1.8±0.2)に比べて有意に高値だった(いずれもP<0.05)。非投与群との比較では、シタグリプチン投与群は有意な左室重量の低下を示した(P<0.01)。

 左室拡張機能の評価においても興味深い結果が示された。左室内径短縮率、心室内圧上昇曲線の傾き、左室圧下降脚の時定数については、シタグリプチン投与群と非投与群との間に差はなかった。

 しかし、拡張期末圧容積関係(EDPVR)については、シタグリプチン投与群(0.073±0.0149 mmHg/μL)は、非投与群(0.11±0.0008 mmHg/μL)に比べて有意な低値を示した(P<0.05)。このEDPVRを圧力・容積ループにより解析したところ、シタグリプチン投与群のEDPVRのスロープはよりなだらかになり、左室拡張期機能に改善が得られていると考えられた。

 ラットの左室組織の免疫染色法による解析では、シタグリプチン投与群で非投与群に比べ、有意なSDF-1αの上昇が観察された(P<0.05)ほか、毛細血管密度も有意に増加し(P<0.05)、左室組織における細胞アポトーシスも有意に減少(P<0.05)、さらに、肥大した心筋細胞の有意な縮小も認められた(P<0.05)。

 Connelly氏はこれらの検討結果を踏まえ、「シタグリプチンによるDPP-4阻害は、心筋梗塞の予後において、心肥大を抑制するとともに、毛細血管密度を増加させ、心室機能のコンプライアンスを向上させると考えられる。DPP-4の阻害は、糖尿病合併例の心筋梗塞後のアウトカムを改善しうる新たな治療戦略となる可能性がある」と総括した。

(日経メディカル別冊編集)


【訂正】
 本文第11段落に、「シタグリプチン投与群(0.073±0.0149 mmHg/μL)は、非投与群(0.11±0.0008 mmHg/μL)と偽処置群(0.028±0.005 mmHg/μL)に比べて有意な高値を示した(いずれもP<0.05)」とありましたが、正しくは「シタグリプチン投与群(0.073±0.0149 mmHg/μL)は、非投与群(0.11±0.0008 mmHg/μL)に比べて有意な低値を示した(P<0.05)」でした。お詫びして訂正します。