米国Cleveland ClinicのThomas Cook氏

 β遮断薬が、トラスツズマブやアントラサイクリンなどの抗癌剤治療を受けている乳癌患者の心不全発症や心機能低下を有意に抑制することが、12カ月間の追跡調査の結果、示された。11月12日からフロリダ州オーランドで開催されている第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)で、米国Cleveland ClinicのThomas Cook氏らが発表した。

 癌化学療法を受けている患者では心血管疾患のリスクが高いことが知られており、乳癌に対する治療を受けた後、術後療法によりトラスツズマブやアントラサイクリン系薬剤の投与を受けている症例で、心不全や心機能低下といった心毒性の発生リスクが高くなる傾向が指摘されている。

 このため、Cook氏らは、心保護作用のあるβ遮断薬やACE阻害薬が乳癌治療開始時から投与されている場合の心毒性軽減効果について後ろ向きに検討した。

 対象は、2005〜2010年に化学療法を受けた患者のうち、心毒性のリスクがある化学療法とトラスツズマブの投与を受けた患者で、心不全の既往がなく、トラスツズマブ投与開始時とその後の12カ月間にわたって心エコー検査を受けた198人。分析は、電子化された診療記録から、条件に該当する患者のデータを抽出することによって行った。

 心機能の評価には、心不全の新規発症と左室機能低下(左室駆出率[EF]が55%未満、またはEFの低下幅が10%を上回る)を合わせた複合エンドポイントを用い、乳癌治療と同時に開始したβ遮断薬/ACE阻害薬の効果を12カ月間にわたり評価した。

 β遮断薬が投与されていたのは30人、投与されていなかったのは167人だった。β遮断薬投与群と非投与群との間で有意差が認められた患者背景項目は、年齢(投与群59歳、非投与群51歳)、高血圧(同53%、11%)、肥満(同30%、5%)、ACE阻害薬の使用(同27%、8%)だった(いずれもP<0.001)。

 登録時のEFについては、55〜59%が投与群37%、非投与群43%、60〜64%が順に43%、34%だった。55%未満はそれぞれ7%、2%で、両群間に有意差はなかった。

 抗癌剤治療については、アントラサイクリンを4サイクル以上投与されたのが投与群10%、非投与群15%、アントラサイクリン以外の化学療法を受けたのはそれぞれ17%、8%、トラスツズマブを10サイクル以上投与されたのは投与群70%、非投与群72%だった。

 12カ月間の追跡の結果、解析対象197人のうち14人が新たに心不全と診断され、72人が左室機能低下を来した。しかし、心不全を発症したのはいずれもβ遮断薬を投与されていなかった患者で、β遮断薬投与群で心不全を発症した患者は30人中1人もいなかった。複合エンドポイントによる心機能評価(心不全発症とエコー評価)でも、心機能低下を認めたのはβ遮断薬投与群の6%に対して非投与群では42%と、β遮断薬投与群で心機能低下の有意な抑制が認められた(P<0.001)。

 他の因子に関する調整後のロジスティック回帰分析の結果、将来の心機能低下の予測因子として有意だったのは、β遮断薬(オッズ比0.17、95%信頼区間[CI]0.05-0.59、P=0.006)、喫煙(オッズ比4.16、95%CI 1.12-15.6、P=0.034)、ベースライン時のEF(オッズ比1.29、95%CI 1.18-1.41、P=0.001)だった。一方、ACE阻害薬は有意な予測因子ではなかった(オッズ比1.67、95%CI 0.46-6.08、P=0.440)。

 以上の結果から、Cook氏は「β遮断薬は抗癌剤投与を受けている乳癌患者に対して心保護作用を有すると思われる。今後、臨床試験により前向きに評価する必要がある」と結論した。

(日経メディカル別冊編集)