英国Oxford大学のMartin Landray氏

 2010年の米国腎臓学会(ASN)における報告で注目を集めたSHARP試験では、慢性腎臓病(CKD)患者に対するエゼチミブとスタチン併用によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法により、約5年の追跡で主要動脈硬化性イベントを対プラセボ比で17%減少したことが報告された。今回、11月12日にフロリダ州オーランドで開幕した第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)では、治験責任者の1人である英国Oxford大学のMartin Landray氏が同試験の詳細を解説、会場に入りきれないほどの聴衆を集める盛況ぶりで、改めて関心の高さを見せつけた。

 SHARP試験では、心筋梗塞または冠動脈血行再建術の既往がない40歳以上のCKD患者で、2回以上クレアチニン値の上昇(男性≧1.7mg/dL、女性≧1.5mg/dL)を認めたか、あるいは血液透析/腹膜透析中の患者9438人を登録した。

 登録患者の年齢は62±12歳で、男性63%、喫煙者13%、血管疾患15%、糖尿病23%。6247人と約2/3を占める非透析患者では、試験開始時の推算糸球体濾過量(eGFR)が27±13mL/min/1.73m2、アルブミン尿症の罹病率は8割だった。

 同試験では最初の1年間、エゼチミブ+シンバスタチン群に4193人、シンバスタチン群に1054人、プラセボ群に4191人を割り付け、エゼチミブを併用することによる安全性を確認した上で、シンバスタチン群の1054人を再度割り付けた。最終的にエゼチミブ+シンバスタチン群4650人、プラセボ群4620人について、追跡期間中央値4.9年における安全性と有効性を評価した。

 Landray氏はまずエゼチミブ+シンバスタチンの安全性について、プラセボと比較した結果を示した。筋障害、肝炎・胆石、癌リスクの上昇は全く認められず、非血管疾患による死亡リスクの上昇もないこと、また、腎疾患の進行に有意な影響を与えないことを示し、エゼチミブとシンバスタチンの併用が安全な治療法であることを強調、その上で有効性について報告した。

 有効性の評価指標は、主要な動脈硬化性の心血管イベント(非致死性心筋梗塞、冠疾患死亡、非出血性脳卒中、全ての血行再建術)である。追跡期間中のイベント発生はエゼチミブ+シンバスタチン群では526人(11.3%)、プラセボ群619人(13.4%)で、17%のイベントリスク低下が認められた(リスク比0.83、95%信頼区間:0.74-0.94、ログランク検定によるP=0.0021)。サブグループ解析でも、概ね全体の結果と同様であることが示された。

 これまで、CKD患者を対象としてLDL-C低下療法の心血管予防効果について検討した2つの試験「4D」と「AURORA」では、有効性を示すには至らなかった。SHARP試験ではLDL-C低下の有用性が初めて示されたことになる。

 先行の2試験では、主要評価項目が心血管死全般であったこと、対象が透析患者に限られていたこと、試験がより小規模であったことなど、さまざまな違いが指摘されているが、本講演ではコンプライアンスの違いについても考察が加えられた。

 SHARP試験で試験薬またはそれ以外のスタチンを服用していた患者は、1年目においてはエゼチミブ+シンバスタチン群で77%、プラセボ群で3%。2.5年目にはそれぞれ71%、9%、4年目には68%、14%だった。したがって、試験薬の“正味”(ネット)のコンプライアンスは、エゼチミブ+シンバスタチン群の値からプラセボ群の値を引いた値となり、1年目は74%、2.5年目は61%、4年目は55%と減っていた。

 一方、ベースラインに対するLDL-Cの増減は、1年目においてエゼチミブ+シンバスタチン群で−42mg/dL、プラセボ群で+1mg/dL、2.5年目ではそれぞれ−39mg/dL、−6mg/dL、4年目では−32mg/dL、−3mg/dLとなった。エゼチミブ+シンバスタチン群の値からプラセボ群の値を引いた差は、コンプライアンスと同様に正味とみることができる。その値は、上記のコンプライアンスが減少するにつれ、1年目が−42mg/dL、2.5年目が−33mg/dL、4年目には−30mg/dLと減少していた

 Landray氏はまた、SHARP試験のサブグループ解析で、有意差はなかったものの、透析患者では非透析患者と比較して、動脈硬化性イベントリスク低下の効果が小さかったことについて、「非透析患者の方がコンプライアンス良好であったことも一因ではないか」とした。

 さらに、LDL-C低下療法は長期投与になるほどリスク低減の効果が高いことを示すデータを紹介、「SHARP試験では、4.9年でLDL-Cが33mg/dL低下、主要動脈硬化イベントが17%低下したが、より長期の治療、より良好なコンプライアンスのもとでは、より大きな有効性が得られる可能性がある」との見解を示した。

 最後にLandray氏は、エゼチミブ+シンバスタチン併用によるLDL-C低下療法は、CKD患者群においても重大な有害事象は認められず、安全な治療法であることを再度強調した。米国ではステージ3-5の進行CKD患者が1900万人を数えるが、SHARP試験によれば、エゼチミブ+シンバスタチン併用投与で5年間に患者100万人当たり2万1000件のイベントを避けることが可能になる計算であり、公衆衛生の改善に対して大きく寄与しうることを示唆した。

(日経メディカル別冊編集)


【訂正】
11月22日に以下を訂正しました。
本文第3段落に、「6237人と約2/3を占める非透析患者」とありましたが、正しくは「6247人と約2/3を占める非透析患者」でした。訂正します。