米国North Shore University HospitalのJohn N Makaryus氏

 近年、コンピュータ断層撮影(CT)による古代エジプトミイラの調査が行われるようになり、ミイラの状態、病歴、死亡原因などが解明されるようになった。米国North Shore University HospitalのJohn N. Makaryus氏らは、64列MDCTにより古代エジプトミイラの画像解析を行い、食生活・生活様式からはアテローム性動脈硬化症になりにくいと考えられる古代エジプトにおいても同疾患が存在したことを、11月12日からフロリダ州オーランドで開催されている第84回米国心臓協会・学術会議(AHA2011)で報告した。

 本研究では、米国ニューヨークのブルックリン美術館が収蔵するさまざまな年代の古代エジプトミイラ5体(紀元前1075年〜紀元後325年、推定)を対象とした。血管壁の石灰化をアテローム性動脈硬化症の特徴的所見とみなし、64列MDCTを用いて血管の石灰化の状態を評価した。血管壁石灰化の程度は、生体にも適用される石灰化基準を用い、血管ごとのCa沈着濃度を評価した。

 5体のうち4体のミイラは発掘作業の過程から、名前だけでなく、その背景も明らかにされている。アテローム性動脈硬化の存在はこれら4体で確認され、アテローム性動脈硬化が確認されなかった1体は、背景が明らかでないミイラだった。

 Pasebakhaienipet(紀元前1075〜945年、推定)という名前のミイラでは、右大腿動脈に軽度、右頸動脈に高度、左頸動脈に中等度の石灰化を認めた。

 また、Demetrios(紀元前700〜650年、推定)には右大腿動脈の高度石灰化、Hor(紀元前710〜664年、推定)には右大腿動脈の中等度石灰化、Thothirdes(紀元前664〜525年、推定)には左右の大腿動脈に軽度石灰化が確認できた。

 古代エジプトの食事内容は穀物が中心で、肉や飽和脂肪酸の摂取量は少なかったと考えられる。さらにライフスタイルも、現代のように活動性の低いものではないはずだ。にもかかわらず、今回の調査結果からはアテローム性動脈硬化症が古代エジプト人にも存在したことが示唆された。

 もっとも、ミイラとして体が保存されるのは支配階級であり、生活環境は現代に近かった可能性もある。動脈硬化が認められなかった1体は、他の4体に比べ生存時の社会的階級が低かったと推察されているという。

 Makaryus氏は本調査の結果について、「血管疾患は生活習慣に起因する現代病という側面だけでなく、人間の遺伝的素因と環境因子の相互作用で発症するという要因もあるのだろう」と考察している。

(日経メディカル別冊編集)