大阪大学の増田大作氏

 メタボリックシンドローム動脈硬化性疾患の発症、進展に関わる因子として、食後高脂血症が注目されている。大阪大学の増田大作氏(写真)らは、小腸のコレステロール輸送体Neimann-Pick C1 Like 1NPC1L1)阻害薬エゼチミブが、タイプIIb脂質異常症患者の食後高脂血症を是正することを報告しているが、その機序は明らかにされていなかった。今回、食後高脂血症モデルマウスを用いてその分子機序の解明を試みた結果、エゼチミブはコレステロールの輸送を阻害するだけでなく、脂肪酸の輸送やapoB-48の産生を抑制し、カイロミクロンを構成するコレステロールと脂肪酸、apoB-48などを低下させることを見い出した。その成果を、シカゴにて11月17日まで開催された第83回米国心臓協会・学術集会(AHA2010)で報告した。

 増田氏らは、高脂肪・高蛋白食餌下で飼育した野生型マウス(WT)とCD36ノックアウトマウス(CD36KO)の2種類の高脂血症モデルを使用した。WTは生理的条件下で生じる食後高脂血症モデルで、遺伝的な要因をもつCD36KOは、通常食餌下でメタボリックシンドローム様の変化を伴う高TG血症を呈し、実際の食後高脂血症の病態をよりよく反映するモデル。

 これらのモデルマウスに対し、食餌を単独、もしくは0.006%のエゼチミブとともに4週間与えた上で経口脂質負荷を行い、負荷前および負荷3時間後の血清TG値の変化を調べた。また、負荷3時間後に採取した血清サンプルをHPLCにかけて分画し、リポ蛋白の組成を調べるとともに、apoB-48のウエスタンブロット解析を行った。さらに、負荷3時間後の小腸リンパ液も採取し、血清サンプルと同様に、リポ蛋白組成の解析とapoB-48の定量を行った。

 その結果、脂質負荷3時間後の血清TG値は、いずれのマウスにおいても負荷前より著明に上昇していたが、エゼチミブを投与されたマウスでは、未投与のマウスに比べてTG上昇が有意に抑制されていた(WT:375mg/dLから252mg/dLへ、CD36KO:457mg/dLから383mg/dLへ)。

 負荷3時間後の血清サンプルのHPLC解析では、エゼチミブ未投与のマウスにおいてカイロミクロン分画の大きなピークとVLDL分画の中程度のピークが認められたが、エゼチミブを投与されたマウスでは、いずれのピークも抑制されていた。さらに、エゼチミブを投与されたマウスでは、未投与のマウスに比してapoB-48の発現も低下していた。

 小腸リンパ液サンプルでのHPLC解析では、血清サンプルで認められたVLDL分画のピークは認められず、カイロミクロン分画の大きなシングルピークが認められたが、やはりエゼチミブの投与によって抑制されていた。

 次に増田氏らは、これらのマウスの小腸細胞を単離し、脂質の輸送や生合成に関わる各種酵素や輸送体遺伝子の定量PCRを行った。その結果、エゼチミブを投与されたマウスでは、未投与のマウスに比べて、apoB-48ならびに遊離脂肪酸輸送体のFATP4の発現が有意に低下しており、脂肪酸合成酵素(FAS)およびアシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT2)の発現が有意に増強していた。

 エゼチミブはNPC1L1の阻害によってコレステロール濃度を低下させるだけでなく、FATP4を介して遊離脂肪酸の濃度を低下させる方向に働いていることが示唆された。一方で、FATP4低下に対する恒常性反応と思われるFASのアップレギュレーションと、NPC1L1阻害に対する恒常性反応と思われるACAT2のアップレギュレーションも認められたが、apoB-48の発現は低下していたことから、FASやACAT2のアップレギュレーションはカイロミクロン産生低下を抑える機序には結びついていないと考えられた。

 以上の結果より増田氏らは、エゼチミブはコレステロール輸送の阻害と脂肪酸輸送の阻害、apoB-48産生の抑制という少なくとも3つの機序により、カイロミクロンの産生を抑制し、食後高脂血症の是正に働く、と結論した。

(日経メディカル別冊編集部)