東京大学の蔵野信氏

 コレステロール輸送体NPC1L1Niemann-pick C1 Like 1 Protein)は、ヒトでは小腸と肝臓の双方に発現しているが、マウスの肝臓にはほとんど発現していない。東京大学の蔵野信氏(写真)らは、このことを利用し、肝臓にNPC1L1を過剰発現させたトランスジェニックマウス(L1マウス)を用いて、肝におけるNPC1L1の役割の解明を試みた。その結果、NPC1L1から肝臓に取り込まれたコレステロールは、転写因子FoxO1の発現調節を介して内因性のTG合成や糖新生の修飾に働いていることを確認、シカゴにて11月17日まで開催された第83回米国心臓協会・学術集会(AHA2010)で報告した。

 ヒトの肝臓は、(1)肝臓内で新生される内因性のコレステロール、(2)類洞から取り込まれるリポ蛋白に含まれるコレステロール、(3)NPC1L1を介して腸管から吸収されるコレステロール、という3つの経路でコレステロールを得ている。一方、マウスのコレステロール獲得経路は(1)と(2)のみだが、L1マウスではヒト同様に(3)の経路が加わる。よって、L1マウスと通常のマウス(Nullマウス)を比較すれば、(3)の経路の役割が自ずと見えてくるはずだ。

 L1マウスは、C57BL6マウスにNPC1L1遺伝子を組み込んだアデノウイルスを感染させて作製。一部の個体はNPC1L1阻害薬エゼチミブの影響をみるために、同剤を食餌とともに3週間投与した。蔵野氏らは、遺伝子導入から5日目にこれらのマウスの血漿および肝組織を採取し、一連の検討を行った。

 まず、血漿コレステロール濃度は、L1マウスにおいて有意に上昇し(p<0.01)、その上昇はエゼチミブ投与によって部分的に抑制された(p<0.05)。コレステロール成分をFPLC分析にかけると、L1マウスにはNullマウスには認められないapoEに富むリポ蛋白(ERL)分画のピークが認められ、そのピークはエゼチミブによって部分的に抑制された。この分画をアガロースゲル電気泳動にかけると、α部位への泳動がみられたことから、ERLはHDLだろうと推測された。

 なお、L1マウスの肝組織のコレステロール量は、上昇傾向がみられたものの有意ではなかった。よって、NPC1L1を介して腸管から吸収されたコレステロールの多くは、肝臓に取り込まれることなく、そのままERLとなって血漿中に排出されるのではないかと蔵野氏らは推測している。

 続いて蔵野氏は、NPC1L1遺伝子導入がTG代謝に及ぼす影響について検討した。結果、血漿TG濃度の低下が認められ、これと一致してVLDL産生の低下が認められた(ともにp<0.01)。さらに、TG運搬を担うMTP(microsomal TG transfer protein)mRNA量の低下が認められた(p<0.01)ことから、VLDL-TG産生の抑制はMTPの発現抑制を介した作用が働いていることが示唆された。

 さらに、L1マウスでは、空腹時血糖の有意な低下(p<0.05)が認められるとともに、インスリン感受性の有意な改善(p<0.05)が認められた。これらは、糖新生の主要酵素G6Pase(glucose-6-phosphatase)mRNA量の低下を伴っていた(p<0.01)ことから、これが血糖低下の機序となっていると推測された。

 このように、肝におけるNPC1L1は、MTPならびにG6Paseの発現を抑制することが示された。MTPの発現を修飾する因子としては、ERKのほか、転写因子のSREBPやFoxO1の関与が知られている。そこで蔵野氏らは、L1マウスにおけるこれらの因子の発現をNullマウスと比較した。

 その結果、ERKおよびSREBP量は両マウスとも変わりなかったが、FoxO1の発現はL1マウスで低下していた。FoxO1の発現低下はG6Pase発現の低下ももたらすことが報告されている(Nakae et al. J Clin Cinvest 2001)ことから、これがMTPおよびG6Paseが低下した機序だと考えられた。

 以上の結果より、肝臓に発現したNPC1L1は、血漿中のapoEに富むリポ蛋白成分を増加させるとともに、肝におけるVLDL-TG産生と糖新生の抑制に働いていることが明らかとなった。蔵野氏は、「NPC1L1を介して吸収されたコレステロールは、他の起源のコレステロールとは異なる特性を有しているのかもしれない」と述べた。

(日経メディカル別冊編集部)