九州大学の佐藤敬氏

 食事由来のコレステロール酸化物オキシステロール)は、血中のリポ蛋白に吸収され、動脈硬化の進行を早める。九州大学の佐藤敬氏(写真)らは、ApoE欠損マウスを用いたオキシステロール誘導性粥状硬化モデルに対するコレステロール吸収阻害薬エゼチミブの効果を検討するなかで、エゼチミブが粥状硬化の進展を抑制することを確認。さらに、その作用は単球の活性化に端を発する炎症過程の抑制を介していることを示唆する知見を得た。成果は、シカゴにて11月17日まで開催された第83回米国心臓協会・学術集会(AHA2010)で発表された。

 ApoE欠損マウスは、高脂肪食+アンジオテンシンII(AII)の負荷により大動脈に粥状硬化病変を生じる動脈硬化モデル動物だ。佐藤氏らは、18週齢の雄性ApoE欠損マウスを2群に分け、一方には通常の高脂肪食(HFD群、n=12)、もう一方にはオキシステロールを31.8%含有するHFD(Oxy-HFD群、n=13)を与えて4週間飼育した後、両群の個体をさらに二分し、一方には生理食塩水、もう一方にはエゼチミブ5mg/kg/日をそれぞれの食餌とともに与えて4週間飼育した。また、全個体に対し、4〜8週の4週間にわたってAII 1.9mg/kg/日を腹腔内注入した。

 これらのマウスは8週後に屠殺され、大動脈の粥状硬化病変の大きさが比較された。エゼチミブ投与の2群(各n=5、n=6)では、エゼチミブが投与されなかった2群(各n=7、n=9)に比べ、粥状硬化病変の形成が有意に抑制されていた(ともにp<0.01)。また、エゼチミブが投与されなかった2群では、Oxy-HFD群の病変範囲の方が有意に大きかった(p<0.01)が、エゼチミブ投与の2群では、HFD群とOxy-HFD群の間に病変範囲の差は認められなかった。

 各群の個体における病変組織へのマクロファージの浸潤を免疫組織学的に観察すると、エゼチミブ投与の2群では、エゼチミブが投与されなかった2群に比べ、浸潤が有意に抑制されていた(ともにp<0.05)。また、HFD群とOxy-HFD群の比較では、Oxy-HFD群の浸潤範囲の方が有意に大きかった(p<0.05)が、HFD+E群とOxy-HFD+E群の比較では、浸潤範囲に差は認められなかった。

 すなわち、HFDとOxy-HFDはいずれも粥状硬化を促進するが、促進の度合いはOxy-HFDの方が強力なこと、その強力なOxy-HFD刺激に対してもエゼチミブは粥状硬化抑制的に働くこと、そして、動脈硬化の程度はマクロファージの浸潤の程度と一致しており、エゼチミブ投与に伴う両者の変化も一致していることが示された。

 そこで佐藤氏らは、マクロファージの遊走を促進するMCP(単球走化活性化因子)-1と、マクロファージの浸潤を促進するMMP(matrix metalloproteinase)の、病変組織における発現を調べた。その結果、Oxy-HFD群のみでMCP-1の発現増強が認められ、その増強はエゼチミブによって抑制された(p<0.05)。一方、MMPはHFD群とOxy-HFD群の双方で増強しており、いずれもエゼチミブによって抑制された(各p<0.05、p<0.01)。

 Oxy-HFD群に特異的なMCP-1の増強は、遺伝子レベルでも認められ、大動脈局所におけるMCP-1遺伝子の発現は、HFD群の2.25倍にアップレギュレートされていた。また、IL-1αやIL-1受容体、TNFといった炎症関連遺伝子の発現は、それぞれ2.3倍、2.06倍、1.89倍にアップレギュレートされていた。逆に、Kruppel-like factor 2やTGFβ1、PPARαといった抗炎症遺伝子の発現は、各0.13倍、0.18倍、0.26倍にダウンレギュレートされていた。

 また、Oxy-HFD群の血漿中では、MCP-3、M-CSF、MIP-1γといった単球によって産生されるサイトカイン濃度が有意に亢進しており、エゼチミブ投与によって抑制された。一方で、炎症性サイトカインのIL-1βやIL-10などの変動は認められなかったことから、エゼチミブの抗炎症作用は一般的な抗炎症作用とは一線を画す単球を介した機序による可能性が示唆された。

 以上の結果より、(1)食餌由来のオキシステロールはApoE KOマウスにおける大動脈粥状硬化病変の形成を促進し、病変部位におけるMCP-1発現の増強と、単球が産生するサイトカインの血漿中濃度の上昇をもたらすこと、(2)エゼチミブは、オキシステロールによって誘発される粥状硬化の進展を抑制し、その作用機序には、単球の活性化抑制が関与していることが示された。佐藤氏は、「エゼチミブによる治療は、食事由来のコレステロール酸化物による動脈硬化予防の新たな戦略となるかもしれない」と述べた。

(日経メディカル別冊編集部)