オランダErasmus大学医療センターのHenricus J Duckers氏

 急性ST上昇心筋梗塞STEMI)でプライマリPCIを受ける患者を対象に行われた脂肪組織由来幹細胞の注入療法で、臨床的に意義のある梗塞面積の減少が確認された。APOLLO試験の成果で、オランダErasmus大学医療センターHenricus J Duckers氏(写真)らが、11月13日から17日までシカゴで開催された第83回米国心臓協会・学術集会(AHA2010)で発表した。

 自己移植用に利用する脂肪組織由来幹細胞(ADRCs;Autologous adipose-derived regenerative cells)は、皮下脂肪組織から治療に必要な充分量を容易に採取できるのが最大の利点。患者の脂肪組織は成人幹細胞が豊富であり、細胞の分離を2時間以内に迅速に行えるメリットがある。脂肪組織の採取から冠動脈内注入まで同じ処置中に行うことができるため、ADRCs注入療法は急性心筋梗塞(AMI)のプライマリPCIで効果を発揮するものと期待されている。

 Duckers氏らは今回、初めて人を対象とするADRCs注入療法試験(APOLLO試験)に取り組み、その安全性と忍容性、さらには期待される効果について検討した。APOLLO試験は、小規模ながらも前向き二重盲検、無作為化プラセボ対照試験として実施され、2008年1月から2009年5月までに、14人のAMI患者が参加した。

 最大の目的は、STEMI患者において、冠動脈内経由で注入するというADRCs療法の安全性と実現可能性を確認することだった。試験では、標準の脂肪吸引術を実施して細胞を分離後、患者はプライマリPCI後から24時間以内に無作為に、3:1の割合で20x106のADRCsの冠動脈内経由注入群(ADRC群、10人)とプラセボの冠動脈内経由注入群(プラセボ群、4人)とに割り付けられた。

 試験の結果、対象となったAMI患者における脂肪吸引術とADRCsの冠動脈内注入術は全員に対して安全に実施され、忍容性も良好であった。TIMI血流への影響は見られず、冠動脈血流予備能にも変化はなかったことから、ADRCs注入による循環閉塞はほとんどないことが示唆された。有害事象は、1人の患者に血腫形成を認めたほかは、特に目立ったものはなかった。

 一方、効果の面では、まずSPECT画像による解析で左室駆出分画率(LVEF)の治療前と6カ月後の変化をみたところ、プラセボ群は52.0%から50.3%へ−1.7ポイントの変動だったのに対し、ADRC群では52.1%から56.1%へ4.0ポイントの改善を示した。両群の差は5.7ポイントで、有意差はなかったが、ADRC群の方で改善傾向を認めた。同様に、心臓核磁気共鳴画像法(cMRI)による検討でも、有意ではなかったがADRC群の方が改善傾向を示した。

 また、ADRC群では、梗塞面積の著しい減少が確認された。増強MRIにより、全左室重量に対する梗塞量として表した指数で定量すると、平均の梗塞面積は、ADRC群で登録時の31.6%から6カ月後には15.4%へ、51.3%の有意な減少を認めた(p<0.001)。一方、プラセボ群では、登録時、6カ月後のともに梗塞面積は24.7%で、変動は見られなかった。血流欠損の変化については、心電図同期MIBI SPECTによるVRS(Visual Rest Score)を調べたところ、プラセボ群では15.0%から16.7%へ1.7ポイントの上昇があったのに対し、ADRC群では16.9%から10.9%へ6.0ポイントの有意な改善を認めた(p=0.004)。ただし、梗塞面積、血流欠損とも、確認された2群間の差は、統計的に有意ではなかった。

 こうした結果から演者らは、「APOLLO試験により、治療に用いた細胞が安全に入手でき、また冠動脈内を経由してAMI後の患者に注入することができることを実証した。さらに、臨床的に意義のある梗塞面積の減少、さらには心筋血流内の駆出分画の上昇がみられた」と結論した。

(日経メディカル別冊編集部)