スペイン・マドリッドのFundacion Jimenez Diaz病院のAres-Carrasco氏

 2型糖尿病患者では、しばしば心筋の線維化と心肥大が認められるが、その機序は分かっていない。スペイン・マドリッドのFundacion Jimenez Diaz病院Ares-Carrasco氏(写真)らは、DPP-4阻害薬シタグリプチンにより、2型糖尿病モデルラットの心筋線維化と心肥大が抑制されることを確認。その機序は、シタグリプチンの作用メカニズムの一つのPPARδの活性化にある可能性を見い出した。この研究成果は、シカゴにて11月17日まで開催された第83回米国心臓協会・学術集会(AHA2010)で報告された。

 今回の検討では、糖尿病自然発症ラットのGK(後藤-柿崎)ラットが用いられた。GKラットは幼若時より血糖値の上昇を示し、4週齢以降は約200mg/dL前後の高血糖状態が持続、加齢に伴い心筋の線維化を呈する。Ares-Carrasco氏らは、16週齢という老年期にあたる雄性GKラット10個体をシタグリプチン100mg/kg/日投与下で飼育し、10週後の心機能と糖・脂質代謝パラメータの変化、心筋組織の病理像を、シタグリプチン未投与のGKラットおよび正常ラットと比較した。

 その結果、シタグリプチン未投与のGKラットは、正常ラットに比して体重増加、高血糖と高コレステロール、高HDL、高TGを呈していたが、シタグリプチンを投与したGKラットでは、いずれの上昇も抑制された。

 また、シタグリプチン未投与のGKラットでは、心エコーにより心室中隔の肥厚とE波の減速時間(DT)の延長を認めたが、シタグリプチンの投与により、これらの異常も減弱された。さらに、シタグリプチン未投与のGKラットの心筋組織では、心筋の線維化と肥大が著明だったが、シタグリプチンの投与により線維化・肥大ともに抑制された。

 各群のラットの心筋組織のホモジェネートを作製し、線維化に関与するTGF-β、結合組織成長因子(CTGF)、フィブロネクチン(FN)の各因子と、肥大に関与するANP、cardiotrophin(CT)-1の各因子のmRNAを定量すると、GKラットではこれらの発現が著明に増強していたが、シタグリプチンの投与により増強は抑制された。

 続いてAres-Carrasco氏らは、培養心筋細胞にパルミチン酸や高濃度のグルコースを添加して高血糖や高脂質を模し、これらの刺激が上記の因子の産生に及ぼす影響を検討したところ、高血糖、高脂質、その双方が併存する状態のすべてにおいて、TGF-βとCTGF、FN産生の亢進が認められた。

 また、高血糖刺激や高脂質刺激により、骨格筋での脂肪燃焼の調節に働く核内受容体PPARδの発現も低下した。PPARδ発現の低下は、高血糖・高脂質状態のin vivoモデルのGKラットにおいても認められ、シタグリプチンの投与によって正常値に回復した。

 以上の結果から、2型糖尿病に伴う心筋の線維化と肥大の過程には、TGF-βやCTGF、FNなどの発現亢進が生じており、これらの亢進は高血糖・高脂質の刺激に呼応して惹起されるPPARδ活性の低下を介していることが示唆された。Ares-Carrasco氏は、「PPARδを活性化するシタグリプチンを2型糖尿病治療に用いることは、心筋の線維化を抑制するという意味でも有用な戦略となるのではないか」と述べた。

(日経メディカル別冊編集部)