ベルギー・ブリュッセルULBのKathleen Mc Entee氏

 ペプチジルペプチダーゼ-4DPP-4)は、食後に消化管から分泌されるインクレチンを不活性化させる酵素で、その阻害薬は糖尿病の治療薬として臨床で使用されている。ベルギー・ブリュッセルULBのKathleen Mc Entee氏(写真)らは、DPP-4阻害薬シタグリプチンが、ブタ心不全モデルの心・腎機能を改善するかどうかを検討し、その結果をシカゴで11月17日まで開催された第83回米国心臓協会・学術集会(AHA2010)で報告した。

 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP1-32)はDPP-4の基質で、同酵素によりBNP1-32がBNP3-32に分解されると生物学的活性は低下する。BNP1-32は心や腎への保護作用を有することからMc Enteeら氏は、DPP-4阻害薬を用いてBNP1-32の分解を抑制すれば、心不全患者の心・腎機能は改善するのではないかと推察。ブタ心不全モデルを用いて、シタグリプチンの長期投与が腎機能と心血管系機能に及ぼす影響、シタグリプチン投与下でBNPを静注すると心機能を改善するか否か、シタグリプチンの長期投与が心不全関連の遺伝子発現に影響するかどうかを検討した。

 今回の研究は前向き、プラセボ対照、二重盲検試験として実施した。実験に供したブタ(n=18)には、コントロール群(n=6)を除いて12体のペーシング心不全モデルを作成、その1週間後からシタグリプチン30mg/kg(n=6)あるいはプラセボ(n=6)を1日1回3週間投与し、投与前後で腎機能と血行動態を評価した。また、心不全発症から4週後にブタBNPを注入して、血行動態と腎機能に及ぼす影響を評価した。

 腎機能の指標となる糸球体濾過率は、プラセボ群では2.3から1.3 mL/kg/minに低下したが(p<0.01)、シタグリプチン群では2.0から1.8mL/kg/minと有意な変動は認められなかった。

 血行動態に関して、心拍出量は両群で低下した。プラセボ群に比べてシタグリプチン群の方が心拍数の低下率が高かったため(8% 対 29%)、1回当たりの拍出量はプラセボ群では17%低下したのに対して、シタグリプチン群では24%増加した(群間差p<0.01)。

 4週後にブタBNPを注入したところ、シタグリプチン群では、心収縮能(収縮末期弾性[Ees;end-systolic elastance]で評価)がプラセボ群に比べ有意に改善した(p<0.05)。また、心室-動脈連関性(Ees/Ea;effective arterial elastance)、機械的効率(stroke work/pressure-volume areaで評価)などの心機能の指標も、プラセボ群に比べて有意に改善した(各p<0.001、p<0.01)。

 試験終了後の心筋におけるBNP、IL-6、Na-Ca交換系、カルモジュリンの遺伝子の発現が、コントロール群に比べてプラセボ群でアップレギュレートされていたが、シタグリプチン群ではこれらの遺伝子の発現が抑制されていた。

 以上の結果から、シタグリプチンは心不全患者の糸球体濾過能を維持し、1回拍出量や心拍数を抑えることで全般的な心機能を改善する可能性があること、また、外因性BNPの心保護作用を高めることで、心臓に負担なく心室‐動脈連関能を改善する可能性も明らかになった。その機序としては、心筋におけるCa制御蛋白、BNP、IL-6などに特異的な遺伝子の発現を抑制することが考えられた。

 Mc Entee氏は、心腎連関症候群の予防や治療におけるシタグリプチンの有効性を検討するために、さらなる研究を進める必要があると述べて講演を終えた。

(日経メディカル別冊編集部)