熊本大学大学院循環器病態学教授の小川久雄氏

 2型糖尿病の日本人患者を対象として、アテローム性動脈硬化症1次予防に対する低用量アスピリンの効果をみた注目の大規模臨床試験「JPAD」の最終成績が、ニューオーリンズで開催中の米国心臓協会・学術集会AHA2008)の初日のセッションLBCTで発表された。1次エンドポイントアテローム性心血管複合イベントの有意な改善は認められなかったが、65歳以上についてのサブグループ解析では、アスピリンによる有意なリスク低減が確認された。試験結果は、JPADの試験代表者である熊本大学大学院循環器病態学教授の小川久雄氏(写真)が報告した。

 JPAD(The Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Aspirin for Diabetes)試験は、PROBE無作為化オープンラベル・エンドポイント盲検化試験)方式で実施された。2002年12月〜2005年5月を参加受け入れ期間とし、2008年4月までフォローアップした。

 対象は30〜85歳の2型糖尿病患者とし、冠動脈疾患脳血管疾患を含むアテローム性動脈硬化症、心房細動(AF)、重症の胃・十二指腸潰瘍などの既往がある患者と、抗血小板薬抗凝固薬治療を受けている患者は除外した。

 日本国内の163施設で集まった2539人を、低用量アスピリン(81または100mg/日)群(1262人)と非アスピリン群(1277人)に無作為に割り付け、中央値で4.37年フォローアップした。

 フォローアップ期間中、1次エンドポイントとして規定されたアテローム性動脈硬化症イベントが154件発生した。低用量アスピリン群では68件、非アスピリン群では86件で、アスピリン群のイベント発生は少なかったが、有意差は得られなかった(HR=0.80、95%CI:0.58-1.10、ログランク検定によるp=0.16)。

 冠動脈と脳血管系の致死的イベントについては、低用量アスピリン群では1件(脳卒中)、非アスピリン群では10件(心筋梗塞5件、脳卒中5件)で、アスピリン群で有意なリスク低減がみられた(HR=0.10、95%CI:0.01-0.79、p=0.0037)。

 さらに、事前に設定されたサブグループのうち、65歳以上群(719人、うち低用量アスピリン群719人、非アスピリン群644人)では、アスピリン投与群で32%と有意なリスク低減が得られた(HR=0.68、95%CI:0.46-0.998、p=0.047)。

 一方、出血性脳卒中と重症の消化管出血を含む重大な出血性の有害事象については、低用量アスピリン群では10件(重大な消化管出血4件、出血性脳卒中6件)、非アスピリン群では7件(すべて出血性脳卒中)発生したが、両群で有意な差はみられなかった。出血性イベント全体では34件対10件で、低用量アスピリン群が多かった。

 小川氏は、「日本人ではアテローム血栓症のリスクが欧米に比べて極めて低く、高リスク群である2型糖尿病患者においてさえ、1次エンドポイントの有意差を達成するには(臨床試験の)パワーが十分ではなかった。しかし、致死的な心筋梗塞と脳卒中、およびさらに高リスクである65歳以上の2型糖尿病患者におけるアテローム動脈硬化症の1次予防については、低用量アスピリン投与の有用性を示すことができた」とした。

 このJPAD試験の成績が発表されたLBCT(Late Breaking Clinical Trials)セッションで採用されたのはわずか16演題。4000演題を超える今期AHA学術集会のトップ0.4%として認められたと言える。しかも、発表時間に合わせてJAMAオンライン版に掲載された。日本発のエビデンスとして、国際的に極めて高い関心を集めたことは間違いない。


【訂正】
本文中に「プラセボ群」とあったのは誤りで、正しくは「アスピリン非投与群」でした。併せて「実薬群」という表記も「アスピリン群」に訂正します。
本文中で「出血性脳梗塞」とあるものは「出血性脳卒中」に改め、関連する表記を訂正します。