ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(米ボストン)循環器科のSinjin Lee氏

  埋め込み型ペースメーカー除細動器を装着している患者には、周囲の携帯電話だけでなく、胸ポケットにイヤホンを入れないようにアドバイスした方がよさそうだ。ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(米、ボストン)循環器科のSinjin Lee氏(写真)らは、臨床試験に基づき、携帯型音楽プレーヤーなどに接続するヘッドホン(イヤホン)が、医療デバイスに誤動作を引き起こす可能性を新たに指摘、ニューオーリンズで開催中の米国心臓協会・学術集会AHA2008)で11月9日に報告した。

 Lee氏らはネオジウム磁石を搭載したヘッドホンに着目した。ネオジウム磁石は永久磁石としては最も強力とされ、強い磁力を利用した小型で高音質のヘッドホンを低価格で実現できるため、携帯型音楽プレーヤーや携帯電話用イヤホン用として広く採用されている。

 そこで研究グループは、携帯型音楽プレーヤー自体と携帯用ヘッドホンが埋め込み型のペースメーカーと除細動器(ICD)に与える影響を調べる臨床試験を実施した。また、試験に用いたプレーヤーとヘッドホンの磁力を、磁力計(ガウスメーター)を用いて計測した。

 対象は、事前に同意を得た患者60人。うち27人がペースメーカーを、33人がICDを装着していた。

 試験に用いた携帯型音楽プレーヤーはiPod NanoとShuffle(米アップル社製)の2機種、ヘッドホンは計8製品(ソニー×2、フィリップス×2、JVC×2、ボーズ×1、アップル×1)で、6製品は耳に挿入するインナーイヤー型、2製品は耳にクリップでかけるクリップオン型とした。試験時には、プレーヤー本体またはヘッドホンを、あらかじめ定めた位置関係で患者の心臓、および埋め込みデバイスの直上に置いた。

 その結果、14人(23%)で、ヘッドホンによる干渉が観察された。このうちペースメーカーは4人(15%)、ICDは10人(30%)で、ICDでは3人に1人が影響を受けたことになる。音楽プレーヤー本体では干渉は全く認められなかった。

 ペースメーカーでは、干渉があった4人全員で不適切(同調ずれ)ペーシングが発生した。またICDでは、干渉があった10人のすべてで検出停止が発生した。これは磁気干渉による誤動作を防ぐため、患者の心臓からの頻脈検出を一時停止するもの。ICDでは1件、重要な動作異常に当たるリプログラミング(動作モードのずれ、強制リセット)も発生した。

 試験に用いたヘッドホンの磁力をガウスメーターで計測したところ、密着状態(0cm)では、8製品中7製品が100ガウスを超え、最も強い製品では300ガウスを超えていた。また2cm離した状態でも2製品が10〜20ガウスを示した。この2製品はいずれもクリップオン型だった。

 Lee氏は、「磁力が10ガウスを超えると干渉の可能性がある。ただし磁場は距離が離れると急速に減少するため、3cm以上離すことを心がけるべき」としていた。


注)ネオジウム磁石は、希土類元素のネオジム(原子番号60)、鉄、ホウ素から成る物質で、1980年代に日本で発明された(米国とほぼ同時という説もある)。永久磁石としては最も強力で、産業・研究用として用いられる直径40mm程度のリング型で磁力(表面磁束密度)が5000ガウス(0.5テスラ)と小型MRIほどもある。吸着力は数10〜100kgほどもあり、磁石同士がいったんくっつくと、人の力で引き離すのは難しい。主原料のネオジムが安定供給されているため、極めて安価であるのも特徴。