フランス・パリ第5大学血管内科教授のJoseph Emmerich氏

  インフルエンザワクチンの接種は冠動脈疾患患者の心血管イベントリスクを減らすことがよく知られているが、新たな研究から、インフルエンザワクチン接種は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクも減らすことが示された。フランスで実施された大規模症例対照研究FARIVEスタディの成果で、フランス・パリ第5大学血管内科教授のJoseph Emmerich氏らが、ニューオーリンズで開催中の米国心臓協会・学術集会AHA2008)で報告した。

 症例群は、フランス内の11施設で入院、外来を問わず近位深部静脈血栓症(DVT)肺血栓塞栓症(PE)初発と診断された連続727症例。性・年齢を一致させた同数の入院・外来患者を対照群とした。

 症例群については18歳未満、VTE既往、5年以内の癌罹患、その他の重篤な疾患例は除外、対照群では静脈・動脈血栓症とその既往、肝不全腎不全などの該当者は除外した。

 参加者に対して、標準化した質問項目を用いて面談を実施し、年齢、学歴、医療履歴、血栓症の既往と家族歴、過去3カ月以内の手術、妊娠などVTEのリスク要因を聴取した。インフルエンザワクチンについても同様に、過去1年以内の接種歴を記録した。

 症例群と対照群の主なプロフィールのうち、平均年齢(ともに52.1歳)、男性比率(ともに43.9%)、BMI(症例群;26.6、対照群;26.2)などには有意差はみられなかった。女性の経口避妊薬使用(症例群女性:62.0%、対照群女性:26.9%)は、症例群が有意に多かった(p<0.001)。

 インフルエンザワクチン接種は症例群の202人(28.2%)、対照群の233人(32.1%)が受けており、対照群が有意に多かった(p=0.039)。

 性、年齢、参加時期、その他の共変数で調整したVTEに対するワクチン接種のオッズ比は0.74(95%CI:0.57-0.97)で、ワクチン接種によってVTEリスクは26%減少していた。

 性、年齢、参加時期、静脈瘤の既往、BMI、学歴で調整の上、サブグループごとに、インフルエンザワクチン接種によるVTEリスクのオッズ比を求めたところ、52歳以下では0.52(0.32-0.85)で、48%のVTEリスク減少がみられた。52歳超では0.89(0.65-1.22)で、有意なリスク減少はなかった。

 若年層でワクチン接種の効果がより高かった点についてEmmerich氏は、「ワクチン接種に対する免疫反応が、高齢者に比べ、若年ではより強いためではないか」とした。ただし、「フランスでは検査体制が十分でなく、抗体価や免疫グロブリンの測定はできなかった」という。

 男女別では男性で0.62(0.43-0.91)と、38%のリスク減少がみられたのに対し、女性全体では有意な減少は認められなかった。ただし、51歳未満の女性では50%、経口避妊薬を服用している女性では59%のリスク減少が見られたという。

 Emmerich氏は、「本研究は、インフルエンザワクチンの接種がVTE発症リスクを減らす可能性を示した初めてのものだ。関連性を確認や機序の解明には今後の研究が必要だが、VTEの初発患者に対して、インフルエンザワクチンを接種することは勧めるべきではないか」と結論付けていた。