九大の増田征剛氏

 九大循環器内科の江頭健輔氏らの研究グループは、多様な薬剤を取り込めるナノ粒子を塗布した薬剤送達型ステントの開発を進めている。このほど、ブタ冠動脈に開発中のステントを留置して実用可能性を評価したところ、ナノ粒子のほぼすべてが細胞に取り込まれるなど、薬剤送達に有望である可能性が示された。11月12日の一般口演で研究グループの増田征剛氏が報告した。

 増田氏は、「市販の第1世代薬剤溶出ステントでは、内皮再生の遅れや、遅発性炎症、平滑筋細胞の増殖などの有害事象が見られる」と指摘する。その原因としては、溶出する薬剤や生体吸収性のないポリマーによる内皮増殖の抑制が考えられるという。現行製品に用いられているポリマーコーティング技術では、(1)ステント表面に塗布する薬剤量を適切に調節できない、(2)ステントからの溶出効率が悪い、(3)親水性低分子薬やDNAをステント表面にコーティングすることはできない、などの問題があるという。

 そこで研究グループでは、新たな生体吸収性ポリマーを用いたナノ粒子溶出ステントを開発、これをブタ冠動脈に留置して、生体内におけるナノ粒子の細胞内送達性を評価した。ナノ粒子には、生体吸収性で人体に安全であることが示されているポリ乳酸グリコール酸(PLGA)を用いた。PLGAナノ粒子は、水溶性の薬剤やDNAを内包できる。キトサンを表面に添加することで粒子表面の電荷を調節できるという。

 粒子を荷電したことで、ステントへのコーティングに“電気メッキ”を利用することが可能になった。ナノ粒子液に浸したステントに通電し、陽イオン電着コーティングを行う。電流や粒子の電荷の調節により、能動的な制御が可能で、コーティング層の厚さ、薬剤やDNAの量を調節できるほか、複数薬剤を用いた多層コーティングも可能という。従来型の薬剤溶出ステントでは単に溶液に浸す“どぶ漬けメッキ”であるため、受動的なコーティングしかできなかった。

 ステントからのナノ粒子放出の動態をin vitroで調べるために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にナノ粒子ステントを浸し、溶出するナノ粒子の量を吸光度測定により測定した。ナノ粒子には薬剤の代わりに蛍光色素を内包した。その結果、ナノ粒子の80%が24時間以内に溶出、残りの20%は7日目までの間に徐々に溶出した。

 次に、ラット大動脈由来の血管平滑筋細胞を培養している液にナノ粒子ステントを沈め、蛍光顕微鏡で観察したところ、ナノ粒子はほぼすべての細胞に取り込まれていた。細胞内での薬剤放出速度は、PLGAの分子量を変えることで調節できるという。

 さらに、ナノ粒子溶出ステントと、ベアメタルステントをブタの冠動脈に留置し、新生内膜が形成された14日後、28日後、56日後にステントの状態を評価した。

 ナノ粒子ステントでは、14日後の時点で、ステント周囲の細胞のほか、新生内膜と外膜を形成する多くの細胞に強い蛍光が認められた。その時点で既にステント自体の蛍光は失われていた。28日後の時点で断面を蛍光顕微鏡で観察したところ内膜と中膜に強い蛍光が観察できた。増田氏は、「ナノ粒子が長期にわたって細胞内に留まることを示唆している」という。

 28日後の時点で、損傷スコア、炎症スコア、新生内膜厚を指標に、ナノ粒子溶出ステントと金属ステントの生体反応を比較したが、有意差は認められなかった。これはこの期間の装着については安全性に問題がないことを示唆したものだ。

 増田氏は、今後の開発の方向性として、「送達できる薬剤の幅が広がったことで、チロシンキナーゼ阻害薬など、内膜の再生を阻害せずに平滑筋細胞の増殖を抑制する薬剤や、遺伝子を持続的に細胞内に送達に利用できる可能性がある」としていた。