阪大大学院の三宅隆氏

 腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)は加齢と粥状硬化に由来する変性疾患であり、大動脈壁の炎症、中膜エラスチンの破壊、壁マトリックス分解酵素であるmatrix metalloproteinases(MMP)発現などが認められる。AAA破裂による死亡の予防には、待機的外科修復が唯一有効な手段だが、破裂リスクの低い小さなAAAには適切な治療戦略がないのが現状だ。

 こうした中、阪大大学院医学研究科臨床遺伝子治療学の三宅隆氏らは、AAAの進展に関与する多くの遺伝子を調整している転写因子NFκBETSに注目し、その阻害という形でAAAに対する低侵襲の分子治療に挑戦した。その結果、NFκBとETSを、デコイ(おとり)蛋白を使って同時に阻害することで、ラビットの腹部大動脈瘤が退縮したという。

 まず同氏らは、ヒトAAAサンプル(最も病変活動性の高いAAA頸部より採取)にてNFκBとETSの活性をgel shift assayにより確認した。免疫組織染色では、大動脈瘤壁におけるNFκBおよびETS細胞の増加も認められた。NFκBおよびETSの一部ではマクロファージの遊走も検出された。

 NFκBとETSの同時阻害のため、oligodeoxynucleotidesODN)と呼ばれるルNFκBとETS双方に対する結合部位のシークエンスを含むキメラおとり蛋白が使われた。ODNの持つMMP-1、-9発現に対する用量依存的な阻害効果が、ヒト大動脈培養を使ったex vivo実験で確認された。続いてODNによるAAAの退縮効果を調べるため、エラスターゼで誘発されたAAAに対して、キメラおとり蛋白を含む送達シートによるラッピングが行なわれた。

 三宅氏によるとキメラおとり蛋白治療により、AAAサイズが投与量に依存して有意に退縮することが、エコー(大動脈内腔面積が評価)や造影から得られたデータで確かめられた。またキメラおとり蛋白治療では、MMP-2、-9が減少し、弾性線維は有意に保たれていた。マクロファージのアポトーシスも誘導され、マクロファージ蓄積の有意な阻害も認められた。AAAの退縮は、大動脈瘤の外膜壁におけるエラスチンやコラーゲンI型とIII型の増加とも有意に関連していた。

 「AAAに対するデコイODNによるNFκBとETSの同時阻害は、大動脈瘤壁マトリックスの合成と分解の再バランスを取ることで、AAAに対するデコイ治療の新しい治療戦略を開くものと期待される」と報告者は述べている。