米メイヨークリニックのRaymond Gibbons氏

 12日に行われた会長講演は、学術的な話題ではなく、米国のヘルスケアシステムに山積する問題を取り上げた。米国心臓協会(AHA)会長で米メイヨークリニックのRaymond Gibbons氏が、今後10年間に改革を実現するために必要として挙げた内容は、日本など、米国と同様の課題を抱えている先進国にとっても参考になりそうだ。

 「米国の医療は、重大な局面を迎えつつある」とGibbons氏は強調する。医療費の高騰は留まるところを知らず、支払いきれないために無保険者が急増しつつあるからだ。

 公的医療制度であるメディケアとメディケードが予算に占める割合は、ほぼ21%にもなった。しかし医療費は、これらでカバーされる診療報酬の支払いの増額を上回る勢いで高騰している。医療機関は、この分のコストを一般の医療保険加入者に転嫁しようとする。米国では国民の約60%が民間医療保険を契約しているが、保険料の値上がりは著しく、今や米国の一家族の保険料は年間1万1500ドルを超えた。雇用者負担分が支払えない中小企業では、結局、従業員の負担を増やすことで対応した。「その結果、無保険者が増え、米国全体で15.9%に達した」という。

 こうした現状はさらに悪化する見込みだ。Gibbons氏は、「米国でも今後25年間に65歳以上の人口が倍増する。高齢化が心血管疾患と脳卒中を劇的に増やすことは明らかなのに、医療システムを変えるための議論は、ほとんど行われていない」と危機感をあらわにした。「このままでは、2010年に冠疾患と脳卒中を25%削減するというAHAの目標も実現が危うい」という。

 Gibbons氏は、今後10年間に改善が必要な課題として下表に挙げる7点を指摘した上で、「保険システムの危機は、心血管疾患と脳卒中による死亡と障害を減らすことができる我々(心臓専門医)の能力を脅かす。現在の医療システムは継続不可能で、小規模な修正では解決できない。痛みがあっても大規模な修正が今こそ必要だ」と強調した。

表1 米国医療において、今後10年間に改善が必要な課題

1.患者に対する教育

健康維持、ライフスタイル修正、処方薬の服薬コンプライアンス改善などを呼びかける。

2.予防に焦点を向ける

肥満と糖尿病は世界的な脅威であり、小児期に始まることが少なくない。

3.医療はチームで

看護師、運動生理学者、準医師資格者、栄養士などの連携で取り組む。慢性疾患のケアは、よりよいチームが必要。

4.研究に重点を置く

医療費に比べ、米国立衛生研究所(NIH)の研究資金は非常に少ない。

5.医療は効率を優先すべき

米国の医療は効率が悪く、医療費に対する余命延長効果が少ない。

6.医療は質に重点を

ST上昇心筋梗塞患者に対する再還流療法は過去20年間に最も進歩した治療分野だが、3割の患者は最新治療の恩恵を受けていない。

7.医療の質と効率の向上には、適切な経済的刺激が必要

米国では検査前評価や患者の管理、教育などに比べ、検査と処置により多くのコストを投入している。