UCLAのBrennan M Spiegel氏

 Rome財団の過敏性腸症候群IBS)アウトカム/エンドポイント委員会では、現行の評価法の問題点を明らかにし、より優れた評価法を確立しようとしている。同委員会の委員を務めるUCLAのBrennan M Spiegel氏は、米シカゴで開催中の米国消化器学会(第40回米国消化器病週間DDW2009)の一般口演で、現行の評価法では下痢型IBSほど鋭敏に便秘型IBSの治療効果を評価できないことを報告した。

 従来のIBSの臨床試験で用いられてきた「全般改善度」による評価では、臨床的に意味のあるミニマルな症状変化(MCID)を見逃してしまう危険が指摘されている。これに代えうる選択肢としては、いくつかの評価ポイントの状態をスコア化し、その数値の変動をもって「50%の症状改善効果」のように評価する方法がある。そこでSpiegel氏らは、これらの評価法がIBSのMCIDを捉えているか否かを検証すべく、過去の臨床試験のメタ解析を行った。

 メタ解析の対象は、5つの製薬企業によって行われた12試験で、例数は計1万66例に上る。そのうち、ベースライン時と試験終了時の腹痛の程度が明示されており、治療効果の判定が可能であった9044例を解析の対象とした。平均年齢は44.3±12.7歳、女性の比率は84.8%、平均IBS罹病期間は11.3±11年、IBSサブタイプは便秘型57.9%、下痢型31.4%、混合型19.7%であった。

 Spiegel氏らは、上記の患者の中で、「IBS症状の全般改善効果」による評価に基づくレスポンダー/ノンレスポンダーと、「50%の症状改善効果※」による評価に基づくレスポンダー/ノンレスポンダーを同定。続いて、それぞれのレスポンダー群とノンレスポンダー群における治療前後の種々の腸症状、疾患特異的QOL、内臓への不安感、労働生産性の変化を比較するdifference-in-difference(DiD)解析を行った。

 DiD解析とは、ある集団での変化の大きさと、その集団の比較対象となる集団での変化の大きさを比較することによって、集団を規定する基準の妥当性を検証するものだ。たとえば、レスポンダー群ではベースライン時から20%、ノンレスポンダー群では5%の変化が生じていたとすると、両者の変化の差、すなわちDiDは20-5=15となる。この値は、レスポンダーの基準が妥当であれば、臨床的に意味のある値、すなわちMCID以上となるはずである。逆に、DiDがMCIDを下回った場合は、基準自体が妥当でなかったと考えられる。

 なお、MCIDの定義に関するコンセンサスはまだ固まっていないが、一般にはSDの半分に当たる変化がMCIDとみなされている。本検討ではSD=10なので、5ポイントの変化があればMCIDとみなされた。

 以上の条件をふまえた解析の結果、「IBS症状の全般改善効果」、「50%の症状改善効果」のどちらによる評価でも、レスポンダー群とノンレスポンダー群には、腹痛、腹部膨満感、頻回な排便、便の硬さ、切迫感、便の残存の6項目においてMCIDを超える差異が認められた。すなわち、どちらの評価も十分にIBSのMCIDを捉えることができる評価法と考えられた。

 しかし、下痢型のIBSサブグループでは、上記6項目すべてのMCIDを捉えることができたのに対し、便秘型のIBSサブグループでは、便の硬さ、切迫感、便の残存の3項目のMCIDを捉えることができなかった。したがって、便秘型IBSの治療効果は下痢型IBSほど鋭敏に評価できないことが示唆された。


※ベースライン時の腹痛の程度を100とし、症状がその50%程度に改善した場合を「有効」として算出。