英国ノッティンガム大学のChristopher J Hawkey氏

 心血管系疾患(CVD)の有病率が高い貧困層では、低用量アスピリンの普及による影響が特に大きく現れているようだ。英国ノッティンガム大学のChristopher J Hawkey氏らは、同大が誇る巨大データベース“QRESEARCH”を利用して、社会経済的ステータス(SES)とアスピリン服用率、CVD有病率、消化管出血発症率との関係を解析した。その結果、貧困層ではアスピリン服用率が高く、消化管出血発症率も高率だった。成果は、米シカゴで開催中の米国消化器学会(第40回米国消化器病週間DDW2009)の一般口演で発表した。

 QRESEARCHは、英国全土の554医療施設を結ぶ医療ネットワークシステムで、1000万人以上の患者情報が登録されている。従来の疾患データベースと一線を画す特徴は、医学的・生物学的な情報だけでなく、患者の職業や就業状況、車の保有状況といったSESに関する情報も網羅されていることだという。

 実は、疾病の有病率には、SESが少なからぬ影響を及ぼすことはよく知られている。たとえば、高い喫煙率、不規則な労働、偏った栄養からくる肥満、健康に対する知識の低さといった貧困層に多い特徴は、いずれもCVDの増加に結びつく因子である。

 そこでHawkey氏らは、近年、普及著しいアスピリンの使用実態とSES、CVDとの関連を調べるとともに、アスピリンの使用増加に伴って増加が懸念される消化管出血の実態について調べた。

 同氏らはまず、ここ数年のアスピリン使用頻度と、消化管出血の発生頻度の年次推移を比較した。その結果、2003年には9.9%であったアスピリン使用頻度は年を追うごとに増加し、2007年には12.5%となっていたが、消化管出血頻度は上部消化管・下部消化管とも明らかな増加は認められなかった。

 次に同氏らは、患者をSESに基づいて5分位したうえで、各分位層別のアスピリン使用頻度と消化管出血発生頻度の年次推移を比較した。その結果、アスピリン使用頻度は、どの時点においても最も貧しい層で最も高く、最も豊かな層で最も低かった(2003年:11.8% vs 8.6%、2007年:15.9% vs 12.5%)。また、消化管出血の頻度にも同様の傾向がみられ、最も貧しい層では、最も豊かな層の1.5〜2倍の頻度で上部消化管出血が認められた。

 また、消化管出血を呈した患者とアスピリン使用者では、いずれもCVDや糖尿病、高血圧などの併存疾患を高率で抱えていた。したがって、貧困層における基礎疾患としてのCVDの存在と、イベント予防策としてのアスピリンの服用、消化管出血との間には因果関係の存在がうかがわれた。

 なお、SESによる各分位層では、アスピリン使用頻度が上がるとともに、アスピリンに加えてPPIを併用する頻度も増えており、結果としてアスピリン単独での使用頻度はどの分位層もほぼ同じとなっていた。しかし、消化管出血の頻度はPPI併用の有無にかかわらず上昇しており、PPIによる消化管出血の抑制効果は認められなかった。

 以上より、少なくとも貧困層においては、アスピリン使用頻度の増加が消化管出血の増加にある程度寄与していることが示唆された。ただし、人口全体ではアスピリンの使用頻度が増加しているにもかかわらず、消化管出血の頻度は増加していないことから、出血増加の理由はアスピリンだけではないと考えられた。