英国Crosshouse病院のAli S Taha氏

 消化管出血を恐れながら服用を続けるか、それとも服用を止めて心血管イベントのリスクに怯えるか? 心血管疾患発症後など、低用量アスピリンによる抗血栓療法が必要な患者がこうした究極の選択に悩むことはもうなくなるかもしれない。英国Crosshouse病院のAli S Taha氏は、低用量アスピリン服用者に対するH2ブロッカーファモチジンの潰瘍予防効果を検証するプラセボ対照試験について報告。同剤の予防的投与により、食道炎と胃・十二指腸潰瘍の発生は33%から5.9%に激減したことを明らかにした。詳細は米シカゴで開催中の米国消化器学会(第40回米国消化器病週間DDW2009)で報告された。

 心血管疾患(CVD)患者とその予備群の増加を背景に、低用量アスピリンの処方は急速に増加している。これに伴い、低用量アスピリンによる潰瘍や消化管出血の報告も増えているが、潰瘍リスクの上昇を恐れて低用量アスピリンを中止するのは危険である。効果と経済性を兼ね備えた点で、低用量アスピリンに代えうる薬はない。

 対策として酸分泌抑制剤が有効だが、プロトンポンプ阻害薬クロピドグレルなどとの相互作用が問題となっている。そこでTaha氏らは、NSAID使用者での良好な忍容性と高い潰瘍予防効果が確認されているH2ブロッカーのファモチジンに着目。低用量アスピリン服用者における予防効果を検討した。

 対象は、CVD予防目的で低用量アスピリン(75〜325mg/日)を服用中の18歳以上の患者である。基礎疾患の種類や低用量アスピリン以外の抗血小板薬使用の有無、ベースライン時の内視鏡検査における軽度な所見(びらん、瘢痕)、H.pylori感染の有無は不問としたが、直近3カ月以内の心筋梗塞・脳梗塞既往者と、高度な内視鏡的所見(食道炎、潰瘍、腫瘍)を認めた患者、ワルファリンまたはNSAIDsの使用者、他の潰瘍惹起性薬剤の使用者、H.pylori除菌療法を受けた患者は対象から除外した。

 同氏らは、これらの基準に該当した404例の患者をファモチジン群(ファモチジン20mg×2回/日投与、n=204)とプラセボ群(n=200)に無作為割付して追跡し、12週間後の内視鏡的所見(食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍)の発現頻度を比較した。対象患者の平均年齢は63歳、併用薬として、近年低用量アスピリンとの併用療法が増加しているクロピドグレルが、ファモチジン群で18.6%、プラセボ群で16.0%含まれていた。なお、発現頻度はITT(intention-to-treat)解析にて求めた。

 その結果、プラセボ群では66例(33%)に上記の所見が認められたのに対し、ファモチジン群では12例(5.9%)にとどまった(P<0.0001)。この傾向は、食道炎(19% vs 4.4%、P<0.0001)、胃潰瘍(15% vs 3.4%、P=0.00021)、十二指腸潰瘍(8.5% vs 0.5%、P=0.0045)とも同じであった。また、粘膜障害がまったく認められないLanzaスコア0の患者の割合は、ファモチジン群で有意に多かった(胃・十二指腸ともP<0.0001)。

 内視鏡所見の発生を従属変数としたロジスティック回帰分析で求められたH.pylori感染のオッズ比(OR)は1.08(95%信頼区間:0.58-1.98、P=0.35)で、有意な予測因子とは認められなかった。他方、β遮断薬の使用(OR 2.57:1.43-4.62、P=0.0017)とベースライン時のびらん・瘢痕(OR 5.673:1.323-24.338、P=0.0195)の2つが有意な予測因子として得られた。

 一方、有害事象の発生率はファモチジン群とプラセボ群で同程度であり、ファモチジン群では上部消化管出血をみた患者は皆無だった。また、心血管イベントの発生も少なかったが、いずれもプラセボ群との間に統計的有意差を認めるには至らなかった。

 以上より、低用量アスピリン服用者に対するファモチジンの予防的投与は、食道炎や胃・十二指腸潰瘍の発症予防に高い効果を有し、安全性・忍容性にも問題はないものと考えられた。多くの合併症と危険因子を抱え、併用薬も多い“リアルワールド”の低用量アスピリン服用者にとって、ファモチジンの予防的投与は有力な選択肢となろう。