Type 1 Diabetes TrialNetのメンバー、Tihamer Orban氏

 関節リウマチの治療に用いられる生物学的製剤のアバタセプトが、1型糖尿病患者の膵β細胞機能の低下を抑制することが、昨年6月にLANCET誌で報告された。このアバタセプトで治療した患者においては、その後この薬剤を中止しても膵β細胞の機能低下が遅延されることが報告された。6月12日までフィラデルフィアで開催された第72回米国糖尿病学会(ADA2012)のLate Breakingセッションで、Type 1 Diabetes TrialNetのメンバー、Tihamer Orban氏が発表した。

 アバタセプトはCTLA4-Ig製剤と呼ばれる遺伝子組み換え可溶性融合蛋白で、静脈内投与される。炎症を引き起こすT細胞の活性化には2つのシグナルが関与し、1つは抗原特異的なシグナルとされ、T細胞受容体と抗原提示細胞(APC)に伝達される。もう1つは共刺激シグナルと呼ばれ、T細胞表面のCD28 とAPC表面のCD80/86との相互作用に関与し、T細胞の活性化にもっとも重要なシグナルと考えられている。アバタセプトはAPC表面のCD80/86およびCD28の同時刺激シグナル、すなわち共刺激シグナルを選択的に阻害することでT細胞の活性化を抑制する。

 Orban氏らは、1型糖尿病の病態解析においてT細胞介在性の膵β細胞破壊が示唆されていることに着目し、膵β細胞機能が残存している発症早期の1型糖尿病であれば、アバタセプトでT細胞の活性化を阻害することで、病態の進行を抑制しうるとの仮説を立て、プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験を実施した。

 試験の対象は発症早期の1型糖尿病患者112例(年齢6〜36歳)。これらの患者をアバタセプト10mg/kg(1回最大投与量:1000mg)投与77例と、プラセボ投与35例に無作為割り付けし、2年間の治療効果を比較した。平均年齢は、アバタセプト群13.9歳、プラセボ群13.7歳で、両群に差はなかった。全例、前投薬はなかった。

 主要評価項目は、膵臓からのインスリン分泌量を評価するC-ペプチド値の変化。C-ペプチド値は混合食負荷試験(mixed-meal tolerance test:MMTT)によって算出した。24カ月後までMMTTを施行できた患者はアバタセプト群73例、プラセボ群30例だった。C-ペプチド値は、ベースラインのC-ペプチド値、年齢、性、試験薬の違いで調整した。解析の結果、3か月、6か月、12カ月、18カ月、24カ月のいずれにおいても、C-ペプチド値はアバタセプト群がプラセボ群より高く維持され、24か月までのC-ペプチド値平均曲線下面積(AUC)はアバタセプト群がプラセボ群に比べ59%大きかった。ここまでの結果は、2011年にLANCET誌で報告されている。

 今回の発表では、2年間の治療期間について前回の発表後に得られた結果と、アバタセプトの治療終了後1年間のフォローアップ試験で得られた結果が示された。

 アバタセプトは2年間で27回の投与としたため、対象が受ける投与回数はプラセボを含めるとのべ3024回だったが、実際に投与された回数は2514回(83%)だった。27回すべての投与を完遂した患者はアバタセプト群69%、プラセボ群66%で、試験薬の違いによる差は認めず、アバタセプトの忍容性はプラセボと同等であることが確認された。なお、投与が施行されなかった理由の58%は、感染症、妊娠、患者の意思などによるプロトコルに準じたものだった。

 対象の中で36カ月までMMTTを施行できた患者はアバタセプト群64例、プラセボ群29例だった。全体の施行率は治療期間の2年間では92%だったが、フォローアップ期間も含めた3年間では83%だった。

 36カ月後のC-ペプチド値(nmol/L)は、アバタセプト群では0.215(95%信頼区間:0.168-0.265)で、プラセボ群の0.135(0.0692-0.205)に比べて有意に高値を示し(P=0.033)、AUCは62%大きかった。この結果を、混合効果モデル(mixed effects model)により回帰直線で推算すると、アバタセプトはプラセボとの比較で、C-ペプチド値の低下を9.5カ月(95%信頼区間:3.44-15.7)遅延させており、すなわち膵β細胞機能の低下を遅延させることが示唆された。

 36カ月後にC-ペプチド値0.2nmol/Lを維持していた患者の割合は、ハザード比0.60(95%信頼区間:0.34-1.10)でアバタセプト群がプラセボ群に比べ有意に高かった(P=0.043)。

 HbA1cは試験期間全体でアバタセプト群が常にプラセボ群に比べて低値を維持し、36カ月目には約1.0%有意に低値だった(P<0.001)。この結果についてOrban氏は「1型糖尿病患者の85%は18歳以下であるため、罹病期間が長期にわたることを踏まえれば、アバタセプトがHbA1cの上昇を抑制する意義は高い」と補足した。

 インスリン投与量は両群ともにベースラインの0.3〜0.4 U/kg/日から36カ月目には0.6〜0.9 U/kg/日に増加し、差はなかった。

 3年間の検査結果に基づくC-ペプチドへの影響因子のサブ解析では、CDR-3がアバタセプトのC-ペプチドへの作用に最も強く関連することが示唆された。

 Orban氏は最後に「アバタセプトの共刺激調節作用が、発症間もない1型糖尿病患者の膵β細胞の機能低下を遅延させることが示唆された。しかもその効果は投与中止後も維持され、36カ月の検討では膵β細胞の低下を9.5カ月遅延させた。今後は、今回の結果をより大規模な試験で再検証すべきだ。同時に、アバタセプトがハイリスクの1型糖尿病でも進展予防効果を示すのか、あるいは他の糖尿病治療薬との併用による新たな治療戦略に可能性はあるのかなども興味深い研究テーマとなるのではないか」と語った。

(日経メディカル別冊編集)