米国VA Pittsburgh Healthcare SystemのR. Harsha Rao氏

 心臓外科手術後の超急性期における高血糖状態は、その後1年間にわたり死亡リスクを上昇させることが明らかになった。さらに低血糖イベントを経験した場合、リスクはより高くなることも分かった。6月12日までフィラデルフィアで開催された第72回米国糖尿病学会(ADA2012)で、米国VA Pittsburgh Healthcare SystemのR. Harsha Rao氏らが発表した。

 今回の解析対象は同施設で心臓外科手術を受けた2234例の患者で、平均年齢63.1歳(中央値は62.6歳)。外科手術の内訳を見ると、冠動脈バイパス術(CABG)2035例、弁形成術・置換術202例、大動脈瘤修復術19例だった(重複あり)。

 同施設では2000年に、心臓外科手術を受けるすべての患者に対する血糖管理を強化した。2000〜2004年は目標血糖値を90〜150mg/dLとしていたが、2005年以降はさらに80〜120mg/dLに引き下げ、施設内審査委員会(IRB)に承認されたGENIE(Glycemic Expert system for Nurse Implemented Euglycemia)という医療用ソフトウエアを用いて、血糖管理を行っている。GENIEは、医師の監督の下、看護師により術後患者の血糖管理が容易にできるように、Rao氏らが開発したもの。

 集中治療室(ICU)における高血糖状態の評価には、目標血糖値(120mg/dL)を超えた部分の血糖値時間曲線下面積であるTWEG(time weighted excess glucose)を指標として用いた。例えば、血糖値160mg/dLが100時間続いたとすると、TWEGは40mg/dL(=160−120)×100hrで4000 mg/dL・hr、また180mg/dLが50時間継続したとすると、60mg/dL(=180−120)×50hrで3000 mg/dL・hrとなる。

 高血糖状態と1年後の死亡率の関係については、TWEGが4000mg/dL・hr(140mg/dLの200時間持続に相当)以上群(429例)とそれ未満群(1805例)で分けると、ハザード比は4.7149(95%信頼区間:3.0141-7.3756)で、高血糖状態だと有意に死亡率が高かった。

 ICUにおける低血糖イベントの程度(下降した血糖値の最小値)と死亡率の関連を、低血糖イベントなし(血糖値70mg/dL以上)、同60〜69mg/dL、同50〜59mg/dLの3群間で比べると、順に死亡率は上がる傾向はあるものの有意差はなかった。また、血糖値40〜49mg/dLと同40mg/dL未満の間も有意差はなかった。

 低血糖イベント(血糖値50mg/dL未満)の有無別に死亡リスクを見ると、低血糖イベントが1回もなかった群の1回以上あった群に対するハザード比は0.1701(95%信頼区間:0.07139-0.4055)と有意な差が認められた。

 そこで、ICUにおける高血糖状態(TWEGが4000 mg/dL・hr以上か同未満)と低血糖イベント(血糖値50mg/dL未満の有無)を組み合わせて4つの群で死亡率を検討したところ、「TWEG 4000mg/dL・hr以上かつ低血糖イベントあり」の群が最も死亡率が高く、次いで「TWEG 4000mg/dL・hr以上かつ低血糖イベントなし」の群が高かった。しかし、「TWEG 4000mg/dL・hr未満かつ低血糖イベントあり」の群は「TWEG 4000mg/dL・hr未満かつ低血糖イベントなし」の群と死亡率があまり変わらず、また、「TWEG 4000mg/dL・hr以上かつ低血糖イベントなし」の群よりも低かった。したがって、高血糖状態(TWEG)を考慮すると、低血糖イベントの有無は死亡率にあまり関与しないことが分かった。

 ICU滞在時間によって対象を四分位に分けて死亡率との関係を見たところ、「125時間超」のみ死亡リスクが上昇していたが、「52時間未満」「52〜77時間」「77〜125時間」はいずれも死亡リスクはほぼ同じであった。ICU滞在時間についても、高血糖状態(TWEG)を考慮すると、やはりICU滞在時間は死亡率に大きく関与しないことが示された。

 以上の結果からRao氏は、「心臓手術後の超急性期における血糖コントロール不良が、1年間にわたって死亡率を高めることが示された」と、術後の血糖管理の重要性を強調した。

(日経メディカル別冊編集)