米国Eli Lilly and CompanyのDana S. Hardin氏

 低血糖は、1型糖尿病患者におけるインスリン療法で最も多い副作用として知られている。この低血糖を感知し救急対応する“低血糖アラート犬”の育成に成功し、既に患者支援が開始されていることが報告された。米国Eli Lilly and CompanyのDana S. Hardin氏らが6月12日までフィラデルフィアで開催された第72回米国糖尿病学会(ADA2012)で、アラート犬の育成過程やアラート犬が配置された患者の低血糖エピソードの変化について発表した。

 米国インディアナ州で介助犬訓練のボランティア事業を展開しているIndiana Canine Assistance Network(ICAN)に参加しているHardin氏らは、麻薬などを嗅ぎ分ける捜査犬が癌やてんかんを感知するとの知見に着目し、低血糖を感知し、何らかの対応を行える低血糖アラート犬の育成を試みた。

 血糖値65mg/dL未満を低血糖、同80〜120mg/dLを正常血糖と定義。1型糖尿病患者の額や首筋から低血糖時と正常血糖時の汗を採取し、同じ形状で見分けがつかないボトルに入れ、さらに第三者の汗のサンプルも加え、低血糖時のものを嗅ぎ分けさせる訓練を行った。正しく選んだ時には何らかの褒美を与えるという方法で、再現性を強化する訓練を繰り返しながら、嗅ぎ分ける能力と再現性が高い犬を選別した。

 その後の本格的な訓練では、移動時や作業時の補助、物の運搬、ドアの開閉、室内の点灯や消灯など、生活全般にわたる介助訓練を約1年半行う。続いて、低血糖の感知能力強化と低血糖時の対応の訓練を、犬の能力に応じて1〜6カ月間実施した。こうして訓練された最初のアラート犬はラブラドール・レトリバーとゴールデン・レトリバーの交配種だった。現在、4匹が決まった患者の介助に既にあたっており、9匹が引き続き訓練されている。

 アラート犬は付き添っている患者の低血糖を感知すると、患者の腕や足を揺する。患者がそれに反応を示さない場合、アラート犬はまず咆哮して周囲に手助けを求める。周囲に誰もいないことがわかると、アラート犬は電話の受話器を外し、あらかじめ設置してある緊急通報用パッドを叩いて救急車を呼ぶ。一方、患者から反応があった場合は、冷蔵庫を開き、オレンジジュースなどの糖分を含む飲食物を選択して患者の手元に運ぶ。

学会場を訪れた“低血糖アラート犬”のピート

 最初にアラート犬が配置されたのは、5歳時に1型糖尿病と診断され、その後長年にわたり頻回の低血糖に悩まされていた若年の男性患者。配置前の1年間に持続性の重症低血糖を経験し、筋力と視力の障害を来していた。

 この患者を対象に、アラート犬による変化が検証された。低血糖および高血糖の重症度と頻度、QOLなど25項目の自己記入式質問票を作成し、アラート犬の配置2週間前と配置6カ月後、9カ月後に調査した。この質問票に含まれている低血糖発現に関する回答と主治医の記録を基に低血糖の回数を推測し、アラート犬が発したアラート回数と比較した。

 その結果、6カ月の調査期間中にアラート犬は67回反応し、そのうち28回は正常血糖値だったが、低血糖は97.5%の感度で検出され、低血糖だったのにアラートされなかった偽陰性は2.5%(1回)だった。

 アラート犬により、患者の低血糖エピソードは明らかに減少していた。アラート犬配置2週間前の調査では、直近1カ月間および3カ月間に意識を消失した低血糖がいずれも5回以上記録されていたが、配置6カ月後の調査ではそれぞれ0回、1回だった。配置9カ月後の調査ではそれぞれ1回、3回だった。緊急通報の回数も、配置2週間前の調査では直近1カ月間および3カ月間にいずれも5回以上記録されていたが、配置6カ月後ではそれぞれ0回、1回、配置9カ月後ではそれぞれ1回、1回だった。

 Hardin氏は、「低血糖アラート犬が汗の中のどのような成分に反応しているのかは、まだわかっていない。糖以外のものと考えられ、現在、研究を進めている」と述べた。費用については、現在は1年間1200ドルで提供しているが、助成金制度も用意されているという。犬の訓練はボランティアで行われており、州刑務所の女性の囚人たちも作業の一環として手伝っている。同氏は「将来的には訓練法を標準化し、低血糖アラート犬の育成を普及させたい」との抱負を語った。

(日経メディカル別冊編集)