藍野病院(大阪府茨木市)の吉田麻美氏

 2型糖尿病患者初期アルツハイマー病の発症に、低血糖症インスリン抵抗性が関与していることが報告された。アルツハイマー病の初期診断に利用されている早期認知症診断支援システムVSRAD)を用いた研究の成果で、藍野病院(大阪府茨木市)の吉田麻美氏(写真)らが、6月28日まで米サンディエゴで開催されている米国糖尿病学会(ADA2011)で発表した。

 吉田氏らは、2型糖尿病患者においてアルツハイマー型認知症の合併を予防する方策を検討するため、海馬傍回萎縮の進行度と関連する臨床指標を明らかにする検討を重ねている。これまでに、アルツハイマー病の初期症状である海馬傍回の萎縮と関係する危険因子として、低血糖や内臓脂肪型肥満(内臓脂肪面積100cm2以上)があることを報告している。今回は、さらに症例数を増やして検討を重ねた。

 対象は同病院に通院中の2型糖尿病患者181人。在宅管理が可能な60歳以上で、男性87例、女性94例だった。年齢は69.0±9.3歳。HbA1c(JDS値、以下同)は6.0±1.2%だった。全症例を対象に、VSRADを用いて海馬傍回の萎縮度を測定し、萎縮の度合いで4つのグループに分けて検討した。同時に、肥満度や内部肥満、インスリン抵抗性、糖・脂質代謝、糖尿病合併症などとの関係も調べた。

 海馬傍回の萎縮度は、関心領域における正のZスコアの平均値で求め、0〜1を「萎縮がほとんどみられない群」、1〜2を「萎縮がややみられる群」、2〜3を「萎縮がかなりみられる群」、3以上を「萎縮が強い群」とした。

 登録時から3年後までの萎縮度をみたところ、「ほとんどみられない群」は81人、「ややみられる群」は60人、「かなりみられる群」が19人、「強い群」が21人だった。

 「ほとんどみられない群」と萎縮度が1超の3群合計で比較したところ、萎縮の大きい患者の方で有意に、年齢が高い(71.8±8.2歳 対 64.9±8.8歳、p=0.012)、体格指数が大きい(25.5±3.6 対 23.6±3.6、p=0.022)、食後2時間血糖値が高い(221±69 対 179±46mg/dL、p=0.0061)、HOMA-R値が大きい(3.2±4.0 対 1.25±1.25、p=0.0037)ことが特徴として浮かび上がった。

 この両群で、糖尿病の罹病期間、HbA1c、空腹時血糖、血圧、LDL、HDL、中性脂肪、クレアチニン、および尿酸値には差は見られなかった。

 萎縮が大きい群ほど有意に、患者の低血糖症の発症率が高く(3回以上/月)、内臓脂肪型肥満の有病率が高かった(p<0.05)。なお、萎縮と糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、さらに脳血管疾患、冠動脈疾患、閉塞性動脈硬化、高血圧、脂質異常症、および喫煙との間には有意な関係は見られなかった。

 これらの結果から演者らは、「低血糖症とインスリン抵抗性が糖尿病患者における初期のアルツハイマー病発症と関係があることを示唆している」と結論した。その上で吉田氏は、「2型糖尿病におけるアルツハイマー病発症を予防するためには、低血糖およびインスリン抵抗性に留意した血糖コントロールとその維持が重要である」とした。また、低血糖と同様に、内臓脂肪型肥満も萎縮進行の危険因子である点にも留意すべきと指摘した。

(日経メディカル別冊編集)