イタリア・ペルージャ大学のGaremia B. Bolli氏

 インスリングラルギンは、ヒトインスリンと比較してin vitroレベルで細胞増殖促進作用が示唆されており、発癌リスクが憂慮されていたが、それを否定する研究結果が示された。イタリア・ペルージャ大学のGaremia B. Bolli氏(写真)らは、グラルギンは投与後迅速に代謝されること、その血糖降下作用は、グラルギンの代謝生成物が関与していることを明らかにし、「グラルギン投与によって発癌リスクがあるとは考えにくい」と結論した。6月24日から米サンディエゴで開催されている米国糖尿病学会(ADA2011)で発表した。

 グラルギンは、ヒトインスリンよりもインスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)に対する結合親和性や、細胞増殖促進作用を示すin vitro研究が2000年に発表された。発癌リスクが懸念される一方で、IGF-1R活性化には超生理学的な用量を要すること、細胞増殖促進作用もIGF-1Rを発現する癌細胞株でのみ観察され、かつ通常の治療用量を超える血中濃度が必要となることも明らかにされている。

 しかし2009年、12万7031人を対象とする観察研究により、ヒトインスリン投与患者と比較してグラルギン投与患者の発癌リスクが高いことが指摘されたのを契機にして、グラルギンと発癌リスクをめぐる議論が再燃した。

 Bolli氏は、グラルギンによる発癌リスクを示したのは、in vitroでの研究成績によるもので、in vivoではグラルギンの代謝を考慮しなければならないと強調した。グラルギンは投与後体内で2段階の代謝生成物になる(M1、M2)。これらのIGF-1結合親和性や細胞増殖作用は、ヒトインスリンと変わらない。

 これまでは方法論的限界から、グラルギンとその代謝物の薬力学および薬物動態学的な特徴は明らかにされていなかった。今回、Bolli氏らはグラルギンおよびその代謝生成物に特異的な測定法を用いて、1型糖尿病患者におけるグラルギンの代謝過程と、糖代謝に対する薬力学的効果との関連性について検討した。

 対象は男性の1型糖尿病患者34人。登録時の平均年齢39歳、糖尿病歴16年(中央値)、平均BMIが25.4、HbA1c値は7.8%だった。これらの患者を、グラルギンを体重当たり0.3単位投与する群(12人)、同0.6単位群(11人)、同1.2単位群(11人)の3群に二重盲検下にて無作為に振り分け、投与30時間後にグルコースクランプ検査を行った。

 薬力学的効果は、グルコース注入速度をAUC(PD-AUC0-24hmg/kg)によって評価した。また薬物動態は、免疫親和性カラムを用いて、血漿中のグラルギン(原体)、M1、M2を抽出し、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC-MS/MS)によって定量化した。検出限界は200ng/ml(5μ単位/mL, 33pmol/L)とし、グラルギン、M1、M2について、それぞれのAUCを算出した(PK-AUC0-24h)。

 その結果、グラルギン、M2はいずれの群においても検出限界以下だったが、M1はグラルギン投与量依存的に検出された。また薬力学的効果は、インスリン投与量、M1濃度と相関し、血漿中のM1濃度が糖代謝に影響することが示された。

 このように、グラルギンは投与後、迅速にM1へと代謝され、その濃度はグラルギン投与量および薬力学的効果と相関していた。Bolli氏は、「グラルギンの血漿中濃度はごくわずかだった。また、M1のIGF-1Rを介した細胞増殖作用はヒトインスリンと差がないことから、グラルギンを糖尿病患者に用いた場合の発癌リスクが、ヒトインスリン以上になるとは考えにくい」と考察した。

 なお、Bolli氏らは、2型糖尿病患者(9人)でも0.4単位のグラルギン投与後に同様の検討を行っており、グラルギンの血漿中濃度は無視できるほどわずかで、主に検出されたのはM1であることを本学会で報告している。

(日経メディカル別冊編集)