フィンランド・ヘルシンキ大学のHannele Yki-Jarvinen氏

 6月25日から29日まで米オーランドで開催された第70回米国糖尿病学会学術集会(ADA 2010)シンポジウム「Combination Therapies for Type 2 Diabetes From the Get-Go---Are We There Yet?」において、フィンランド・ヘルシンキ大学のHannele Yki-Jarvinen氏は、インスリン製剤の重要性をあらためて指摘し、新たな薬剤との併用など、2型糖尿病に対するインスリン療法の今後の方向性について概説した。

 Yki-Jarvinen氏はまず、現時点における2型糖尿病治療の目標を、「ADA/ACC/AHA治療ガイドライン」に示されている、「重症低血糖や有害事象を伴わずHbA1c7%未満を達成することではないか」と指摘した。そして、基礎インスリン+経口血糖降下薬(以下、OHA)と混合型インスリン+OHAとを比較した5試験、基礎インスリン+OHAとインスリン食前投与+OHAを比較した5試験におけるHbA1cとインスリン用量との関係から、インスリン用量が多いほどHbA1c値は良好で、レジメン選択よりもインスリン用量が重要とした。

 また、用いるOHAが同じでも、混合型インスリンや超速効型インスリンの食前投与は、基礎インスリン+OHAと比較して、低血糖や体重増加のリスクが大きいとして、食後高血糖を抑えるには、基礎インスリンと別の薬剤の併用を考えるべきで、「例えばGLP-1アナログが魅力的な代替薬になり得る」との見解を示した。

 Yki-Jarvienen氏らは1992年に、基礎インスリン+OHAによって、体重増加、低血糖を起こすことなく、混合型インスリン、インスリン複数回投与と同等の血糖値改善が得られることを報告している。最近ではHollmanらが、708例の2型糖尿病患者をランダム化し検討した4T試験の結果から、OHAに基礎インスリンまたはインスリン食前投与を3年間加えると、混合型インスリンよりも血糖コントロールは良好であったが、一方、基礎インスリンのみの方が低血糖や体重増加が少ないことを報告している。

 Yki-Jarvienen氏は、基礎インスリン+OHAで、HbA1c値が7%という目標にほぼ達した11の臨床試験の2325例を検証し、HbA1c値は8.8%から7.0%に低下しているが、インスリン用量の平均値は60 IUと、多くの国における平均用量の2倍を要していたことを紹介した。

では、インスリンの必要量は何によって規定されるのか。肝臓における糖新生とインスリンとの関係から、肝臓脂肪が多いほど多くのインスリンを必要とすると考えられる。空腹時の血中インスリンと、肝細胞内脂質量に相関関係があることも報告されている。

 同氏は、2型糖尿病患者14例に対する7か月のインスリン療法で、肝臓のインスリン感受性が改善され、肝脂肪が減少したとのJuurinenらの報告や、9か月後のインスリン用量の独立した予測因子は、治療前のHbA1c値、体重、S-ALT(肝臓脂肪の代理指標)であることを示した自らの論文に言及。「インスリン量を減らすには、肝脂肪を減少させる必要」見解を示した。

 肝脂肪の減少に最も有効なのは減量である。BMI 47の32例において、2週間で5%程度の減量により、肝の脂肪量が25%も低下したことが報告されているという。さらにYki-Jarvienen氏は、PPARγアゴニストのチアゾリジン系薬剤(TZD)の投与で、肝臓の脂肪量が30〜50%減少したことを示す報告を紹介した。ただしTZDでは、体重増加、心疾患リスク、骨関連の有害事象が懸念されるという。

 インスリンと他剤の併用では、もっとも体重増加作用のない薬剤を用いても、HbA1c値の1%減少に伴って体重は1.5〜2.0kg増加する。インスリンと、メトホルミンやSU薬の併用では、体重増加はこの範囲内に収まるが、TZDではこの範囲を超える体重増加が認められるという。さらには、DPP-4阻害薬のシタグリプチンやビルダグリプチンは体重に対する作用はないが、インスリン減量はわずかで、HbA1c値の改善も不十分であるいうの報告を紹介。「現時点では、インスリンとDPP-4阻害薬との併用療法による臨床ベネフィットは示されていない」との見解を示した。

 「2型糖尿病治療で、インスリン療法は本当の解決策なのか?」との命題に対しては、メタボリックシンドロームと2型糖尿病の予防まで考えれば「No」だが、現時点では、2型糖尿病の大血管および細小血管障害を抑制できる唯一の治療であること、適切に用いれば低血糖や体重増加のリスクも低いという意味では「Yes」とした。減量などの生活習慣改善は重要だが実際にはなかなか難しいという状況を踏まえると、基礎インスリンを中心とするインスリン療法は、今後も2型糖尿病治療に欠かせない治療薬であることを強く示唆した講演だった。

(日経メディカル別冊編集)