昨年、インスリン グラルギン(以下グラルギン)を使用している患者群は、他のインスリン製剤使用群よりも発癌スクが高いという報告がドイツおよびスウェーデンから相次ぎ世に衝撃を与えたが、その後の報告はそうした事実を否定するものが多い。台湾大学病院のLee-Ming Chuang氏らも、台湾の国民健康保険請求データベースを利用し、グラルギンおよび他の中間型/持効型ヒトインスリン製剤使用者の発癌率と癌死亡率を調査した。その結果、グラルギンと他の製剤使用者の発癌率や癌死亡率は同等であり、グラルギンの投与により発癌リスクや癌死亡リスクが高まるという事実は認められなかったと報告した。

 今回の解析の対象は、2004〜2006年に中間型/持効型ヒトインスリン製剤による治療を開始した20歳以上かつ癌の既往のない糖尿病患者。該当する患者総数は1万2925例で、うち2844例にグラルギンが処方されていた。

 Chuang氏らは、これらのグラルギン処方例(グラルギン群)のpropensity score(患者の背景因子の傾向を示す指標)を計算したうえで、グラルギン群とpropensity scoreが等しくなるよう調整したほぼ同数の患者を他の中間型/持効型ヒトインスリン製剤処方例から抽出し(他製剤群;n=2804)、両群における2006年末までの発癌率を比較した。

 その結果、グラルギン群において認められた発癌例数は33例、発癌率は1000人・年あたり13.3件であった。一方、他製剤群における発癌例は60例、発癌率は1000人・年あたり16.4件であった。他の発癌関連因子について補正した後のハザード比(HR)は0.79と、むしろグラルギン群のほうが低率であったが、その差は有意ではなかった(95%信頼区間:0.51-1.22、NS)。また、癌の種類(大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、腎臓癌、血液癌)別にみた発生率にも両群間に差は認められなかった。

 続いてChuang氏らは、すでに癌を有していた患者の死亡率に及ぼすグラルギンの影響についても検証すべく、インスリンの処方開始時に癌を発症していた患者を含めたコホートにおいて、グラルギン群と他製剤群の癌死亡率を比較した。その結果、グラルギン群における癌死亡率は0.28%であり、やはり他製剤群(0.26%)との間に有意な差は認められなかった。

 以上の結果より、Chuang氏らは、「グラルギンの投与により発癌率や癌死亡率が高まるという事実は認められない」と結論した。

(日経メディカル別冊編集)