オーストリア・ウィーン医科大学のYvonne Winhofer氏

 糖尿病性心筋症の発症機序は明らかではない。心筋細胞中に脂肪が蓄積する心脂肪症が心筋症発症に関与するのではないかと考えたオーストリア・ウィーン医科大学のYvonne Winhofer氏(写真)らは、妊娠糖尿病(GDM)を経験し、その後、2型糖尿病を発症した女性などの心機能や血中脂質量と心筋中の脂肪量を調べて、糖尿病患者における心機能の低下とHDLコレステロール値低下に相関がみられることを明らかにした。詳細は、6月25日から29日まで米オーランドで開催された第70回米国糖尿病学会(ADA 2010)学術集会で報告された。

 糖尿病患者にはしばしば、心室のコンプライアンス低下や拡張障害、過形成を特徴とする糖尿病性心筋症がみられる。心筋症は、高血圧や冠疾患がない患者にも発生する。

 糖尿病性心筋症の発症機序は明らかではないが、高インスリン血症、高血糖のほか、脂質異常症、心脂肪症、酸化的ストレスなどの関与が指摘されている。それらの中で、近年注目を集めているのが心脂肪症だ。

 2型糖尿病患者の心筋への脂肪蓄積はいつ始まるのか――。この問いに対する答えを得るため、研究者らは、妊娠糖尿病歴のある女性を研究対象に選んだ。妊娠糖尿病と診断された妊婦の90%超は、出産後、血糖値が正常化する。しかし、2型糖尿病リスクは上昇した状態にあり、分娩から10年以内に多くが高血糖を示すようになる。Winhofer氏らは、妊娠糖尿病歴のある女性は、2型糖尿病発症に向かう早期の変化を知るためのモデルになると考えた。

 今回の発表の対象となったのは、出産から10年を経過している、妊娠糖尿病歴があるが耐糖能は正常な女性(nGDM)8人と、妊娠糖尿病歴があり耐糖能異常が見られる女性(iGDM)5人、妊娠糖尿病歴があり2型糖尿病と診断されている女性 (dmGDM) 13人、妊娠中も現在も耐糖能は正常な女性 (対照群) 8人だった。

 MRI、Single voxel proton MR spectroscopy(1HMRS:特定の領域内にどのような物質がどの程度分布しているかを調べる方法)などを用いて、左室の動的パラメーターや心臓中隔の心筋の脂肪蓄積量を調べた。

 その結果、心筋中の脂質量は、dmGDM群で高い傾向が見られたが、対照群との差は有意にならなかった。

 左室機能を示す測定値の多くに差はなかったが、1回拍出量は、対照群に比べdmGDM群で有意に低下していた(p=0.04)。早期波最大流速/心房収縮期波最大流速(E/A)比もdmGDM群で有意に低く(p=0.03)、拡張機能低下が示唆された。心拍数はdmGDM群で有意に高かった(p=0.02)。

 また、dmGDM群ではHDL-c値が有意に低かった。dmGDM群は44.7±12.5mg/dL 、nGDM群66.4±16.6mg/dL、iGDM群は 54.8±13.9mg/dL、対照群は67.3±14.1mg/dL(p=0.0055)だった。Winhofer氏によると、dmGDM群では、耐糖能異常が現れた時点からHDL-c値の低下が始まったという。

 なお、1回拍出量とHDL-c値の間には正の相関がみられた(R=0.3、p=0.04)ことから、心機能の変化と脂質代謝の異常の間には密接な関係があると考えられた。

(日経メディカル別冊編集)