ノルウェー・Trondheim大学病院のMarit R. Bjorgaas氏

 小児1型糖尿病患者を16年追跡した前向き研究で、少数例での検討ながら、小児期における重篤な低血糖症(SH:severe hypoglycemia)の経験は、成人後における認知機能の低下と関連することが示された。特に6歳未満に初回のSHを体験した場合、認知機能低下が著しいことが分かった。ノルウェー・Trondheim大学病院のMarit R. Bjorgaas氏らが、6月25日から29日にかけて米オーランドで開催されている第70回米国糖尿病学会学術集会(ADA 2010)で発表した。

 Bjorgaas氏らは、1型糖尿病の小児において認知機能の低下がみられるとの研究報告の中で、最も一貫性が高いのは、5歳までの幼少期に発症した場合であることから、幼少期におけるSH発症が認知機能に影響を及ぼすとの仮説を立てた。

 同氏らは、SHの既往がある小児糖尿病患者(15人)と、SHの既往がない小児糖尿病患者(13人)の計28人を患者群とし、個々の患児と性、社会的背景、年齢(±6カ月以内)を一致させた同数の対照(マッチドペア)群を1992年に登録、同年内に認知機能テストと脳波計測を実施した。

 16年後の2008年に、27組(96%)の糖尿病群・対照群のペアを追跡し得た。医療記録の確認と個人面接を行った上で、ベースラインで実施した小児用認知機能テストに対応した成人用テストを実施した。

 フォローアップ時に、患者群を、10歳以下の早期にSHの既往を認めた早期SH糖尿病群(9人)と10歳以下の早期にSHの既往を認めなかった非早期SH糖尿病群(18人)に分けて比較検討した。

 フォローアップ時の患者特性をみると、早期SH糖尿病群の平均年齢は28.1歳、発症年齢は平均5.4歳、SHエピソードは平均11回。一方、非早期SH糖尿病群の糖尿病群(18人)の平均年齢は28.8歳、発症年齢は平均9.8歳、SHのエピソード回数は平均4回だった。この時点の対照群(27人)の平均年齢は28.7歳だった。

 認知機能テストの結果は、糖尿病患者とマッチドペアの点数差を対照群の得点の標準偏差で割った値を「相対得点」とし、認知機能の各領域(記憶、精神運動速度、精神運動効率、集中力、問題解決、空間機能、言語機能)について平均点を求めた。平均点が「−1点」とは、認知能力が1標準偏差劣ることを意味する。

 解析の結果、早期SH糖尿病群と非早期SH糖尿病群で大きな差がついた。非早期SH群では、すべての領域で対照群との差が0.5以下、総合点は−0.1(95%信頼区間;−0.4-0.2)で、対照群と有意な差は認められなかった。

 これに対して早期SH糖尿病群は、精神運動速度と集中力を除く、5領域で−0.5以下、特に問題解決、言語、精神運動効率の低下が著しかった。総合点は−1.0(95%信頼区間;−0.5-−1.5)で、対照群に対して有意に認知能力が低かった。早期SH糖尿病群と非早期SH糖尿病群とを比較した場合にも、精神運動効率、問題解決、言語機能と総合点で、早期SH糖尿病群が有意に低かった。

 一方、小児期と成人後の認知機能の相対値を比較すると、ほとんどの項目で低下(すなわち対照群の健常者との認知機能差が拡大)していたが、集中力は逆に改善していた。

 Bjorgaas氏は、総合点に関連し得る因子として、低年齢における初回SH発生を挙げた。初回SHが6歳未満の群の相対得点の平均値は−1.3(95%信頼区間;−0.7-−2.0)、初回SHが6〜10歳の群では−0.7(95%信頼区間;−0.1-−1.3)。年齢低下との関連性も有意(p=0.001)で、低年齢で発症した方が認知機能の低下が大きかった。SHの経験数やHbA1c値の総平均は、有意な関連性がみられなかった。本研究は、小児1型糖尿病においては、発達の面からも低血糖予防が重要であることを示唆するものと言える。

(日経メディカル別冊編集)