オランダ・VU University Medical CenterのTibot RS Hajos氏

 経口薬にて治療を行ってきた2型糖尿病患者に対するインスリン治療の導入は、「治療に失敗した」という罪悪感や喪失感を患者にもたらすなど、心理面にマイナスの影響を及ぼす可能性が指摘されている。しかし、新たにインスリングラルギン(以下、グラルギン)を導入した患者の血糖および心理スコアの変化を追跡したオランダ・VU University Medical CenterのTibot RS Hajos氏(写真)らは、多くの患者がグラルギンにより良好な血糖コントロールを得るとともに、心理面でも明るさを取り戻していたことを6月7日、ニューオーリンズで開催された第69回米国糖尿病学会(ADA2009)のポスターセッションで報告した。

 本検討は、オランダの363カ所のプライマリケア施設において、2005〜2009年に経口血糖降下薬からグラルギン単独、経口薬に追加併用、もしくは超速効型インスリン製剤併用への切り替えがなされた1063人の2型糖尿病患者に対する観察研究である。対象患者の平均年齢は62.4±11.1歳、男女比率は542:517、罹病期間は6.9±5.7年、平均BMIは30±5.8kg/m2だった。

 Hajos氏らは、これらの患者のHbA1cと空腹時血糖(FPG)の変化を6カ月にわたって追跡するとともに、「心の健康」の指標であるWHO-5スコアの変化を追跡した。また、体重変化と低血糖の発現頻度も併せて評価した。

 その結果、HbA1c値はベースライン時の8.4±1.5%から、3カ月後には7.6±1.0%、6カ月後には7.3±1.0%へと有意に低下した(p<0.001)。同様に、FPGも185.4±55.8mg/dLから136.8±39.6mg/dL、131.4±37.8mg/dLへと有意に低下した(p<0.001)。

 さらに、有症候性低血糖の発現頻度も2.7±6.9回/月から2.4±5.5回/月、1.9±3.7回/月へと有意に減少した(p<0.035)。しかし、体重は87.3±18.6kgから87.5±18.2kg、88.3±18.5kgへと微増していた(p<0.001)。

 一方、WHO-5スコアはベースライン時の56.7±25.2から64.4±21.8、66.7±21.0%へと有意に改善した(p<0.001)。特に、ベースライン時のWHO-5スコアが「心の健康状態に問題あり」に相当する29〜49だった患者と「うつ状態に近い」28以下の患者サブグループでのスコアは3カ月で23.8ポイントも改善し(p<0.001)、その状態は6カ月時まで維持されていた。

 以上より、経口薬にて血糖コントロール不良な2型糖尿病患者に対するグラルギンの導入は、良好な血糖コントロールをもたらすのみならず、患者の心の健康にも著明な改善をもたらすことが示された。

 なお、興味深いことに、登録時にWHO-5スコアが不良であったサブグループとスコアが良好であったサブグループのHbA1c値には有意な差は認められなかった。このことからHajos氏らは、「患者を精神的に追い詰める要因としては、血糖コントロールそのものよりも低血糖への不安が大きいのではないか」との見解を示し、グラルギンによる低血糖の発現頻度低下効果を高く評価した。