英マンチェスター大学のLouise K. Mercer氏

 関節リウマチ(RA)の治療に用いられるTNF阻害薬は、固形癌発生リスクの上昇が懸念されてきた。今回、英マンチェスター大学のLouise K. Mercer氏らは、RA患者レジストリであるBritish Society for Rheumatology Biologics Register(BSRBR)の登録例を対象としたコホート研究を実施、5年までの追跡ではTNF阻害薬を投与しても固形癌の発生リスクが上昇しなかったことを明らかにした。詳細は11月5日から9日までシカゴで開催された米国リウマチ学会(ACR2011)で報告した。

 これまでにも臨床試験のメタ解析では、RA患者にTNF阻害薬を投与しても固形癌の発生リスクは上昇しないことが報告されているが、多様な患者に対し、長期にわたって診療を行う実臨床の場で、TNF阻害薬が固形癌の発生リスクにどのような影響を及ぼすのかは大きな関心事だった。

 Mercer氏らはBSRBRから、固形癌の既往がなく、2001〜2009年にTNF阻害薬のインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブが投与されたRA患者(TNF阻害薬群)1万1719人と、生物学的製剤の使用経験がなくDMARDsが投与されたRA患者(DMARDs群)3543人のデータを抽出し、固形癌の発生リスクを2009年12月末まで追跡した。

 解析はCox比例ハザードモデルを用いて行い、観察研究におけるバイアス調整法の一種であるpropensity(傾向)スコアで重み付けした。なお、追跡開始から6カ月以内、および5年以降のデータは解析に含めなかった。

 追跡期間(中央値)は、TNF阻害薬群4.6年、DMARDs群3.4年間で、その間にTNF阻害薬群では295人、DMARDs群では91人に固形癌が発生した。1万患者・年当たりの発生率はTNF阻害薬群63人、DMARDs群84人だった。

 TNF阻害薬群の固形癌発生のハザード比(ベースラインの年齢、性別、喫煙歴、RA罹病期間、NSAIDs使用、合併症、レジストリへの登録年で補正)は0.88(95%信頼区間:0.65‐1.17)となり、TNF阻害薬群とDMARDs群の固形癌発生リスクに有意な差は認めなかった。

 3種類のTNF阻害薬を個別にDMARDs群と比較した場合でも、固形癌発生の補正後ハザード比は、インフリキシマブ0.87(95%信頼区間:0.61‐1.25)、エタネルセプト0.94(95%信頼区間:0.68‐1.29)、アダリムマブ0.81(95%信頼区間:0.57−1.14)となり、いずれもDMARDs群との間で固形癌の発生リスクに有意な差はなかった。

 癌種別に検討しても、大腸癌、肺/気管支癌、乳癌の発生リスクに群間差はなく、経時的に追跡しても固形癌の発生リスクに変化は見られなかった。

 以上の検討からMercer氏は、「癌の発生までに時間のかかる他の癌種も含めて、さらに長期の観察が必要だ」とした上で、「英の実臨床において、固形癌の既往のないRA患者ではTNF阻害薬を投与しても、少なくとも5年後までは固形癌の発生リスクは上昇しない」と結論した。

(日経メディカル別冊編集)