米Alabama大学Birmingham校のJasvinder A. Singh氏

 痛みに対する破局的思考がある人は、ない人に比べて、膝関節移植手術後の痛みに関するアウトカム増悪リスクが、およそ2〜3倍に増大することが分かった。一方で、広範囲の疼痛は、術後のアウトカム増悪とは有意な関連が認められなかった。これは、米Alabama大学Birmingham校のJasvinder A. Singh氏らが、膝関節移植手術を受けた約300人について行った検討で明らかにしたもの。11月5日からシカゴで開催中の米国リウマチ学会(ACR2011)で発表した。

 最近の研究結果から、膝関節移植手術前の精神的・感情的な苦痛が、術後のアウトカムに影響を与えることが示されていた。だが、痛みに対する破局的思考と、同術後アウトカムについての検討は珍しいという。

 同研究グループは、膝変形性関節炎、または同リスクの高い人を対象に行った、多施設共同縦断的コホート研究であるMulticenter Osteoarthritis(MOST)研究の被験者データを元に、膝関節移植手術を行った297人について検討した。MOST研究では、痛みや機能評価には、WOMAC(Western Ontario McMaster Osteoarthritis index)膝機能評価質問票を用い、試験開始時点、術後30カ月後、60カ月後のそれぞれの時点で評価を行った。

 主評価項目は、(1)術後の中程度〜重度の膝の痛み(WOMACの痛みに関する5項目のうち、最低1項目で中程度)、(2)手術による痛みの改善幅が小さい(術前と比べ、術後に膝の痛みがWOMACスコアで5.6/20以上の減少が認められない)の2点で、手術直前と術後3カ月以上経過した時点で評価を行った。

 リスク因子は、(1)Coping Strategies Questionnaire(CSQ;痛みへの対処に関する質問票)に基づく、痛みに対する破局的思考の有無、(2)広範囲の疼痛の有無だった。具体的に、痛みに対する破局的思考については、「痛みを感じると、その程度がひどいため、痛みが軽くなることはないのだ、と感じる」という項目について、そうした感情は「全くない」とした人をスケール0、いつもそう感じるとした人を6とし、0より大きかった人を痛みに対する破局的思考があると判断した。

 広範囲の疼痛については、ウエストの上下、体の左右両側の痛みや軸性疼痛とした。

 膝関節移植手術を受けた297人の平均年齢は66歳。うち71%が女性で、BMIは平均33kg/m2だった。また、両膝を施術したのは94人だった。

 術後アウトカムについて見てみると、中程度〜重度の痛みがあるとしたのは全体の34%、痛みの改善幅が小さかったのは31%に上った。

 多変量解析で、年齢、性別、BMI、人種などについて補正を行った後、痛みに対する破局的思考のあった人の、なかった人に対する、術後に中程度〜重度の痛みがあることに関するオッズ比は、2.3(95%信頼区間:1.3〜3.9、P=0.0025)と高かった。一方で、広範囲の疼痛については、同オッズ比は1.2(同:0.7〜2.1、P=0.49)と有意差はなかった。

 痛みへの破局的思考のあった人はまた、なかった人に比べ、術後の痛みの改善幅が小さい点に関するオッズ比は2.8(同:1.5〜5.1、P=0.0008)だった。一方で、広範囲の疼痛については、同オッズ比は1.1(同:0.6〜2.0、P=0.71)と有意差はなかった。

 また、こうした傾向は痛みへの破局的思考が強いほど大きく、CSQスコアが1〜3では中程度〜重度の痛みに関するオッズ比は2.0、痛みの改善幅が小さい点に関するオッズ比は2.9だった(いずれもP=0.0007)。同スコア4〜6では、オッズ比はそれぞれ2.8、3.1だった(P=0.0048)。

 Singh氏は、今後、痛みに対する破局的思考のある人に対し、痛みへの対処法を指導することで、膝関節移植手術後のアウトカムが改善するかどうかについて、無作為化試験が必要だとした。

(日経メディカル別冊編集)