名古屋大学整形外科の平野裕司氏

 抗TNFα薬の登場により、関節リウマチ(RA)の治療成績は大きく向上した。しかし、RAの病態だけでなく生命活動のさまざまな局面に関与するサイトカインであるTNFαを阻害することは、思わぬ部分に思わぬ影響を及ぼす可能性がある。名古屋大学整形外科の平野裕司氏らは、抗TNFα治療がRA患者の術後経過に及ぼす影響について検討。同治療が創傷治癒や回復の遅延をもたらすことはなかったと報告した。研究成果は米サンフランシスコで開催された米国リウマチ学会(ACR2008)で発表した。

 今回の検討対象は、2004年4月〜2007年7月に名古屋大学と名古屋医療センターで整形外科手術を受けたRA患者のうち、手術前に抗TNFα薬にて治療中であった39例に対して行われた41件(TNFα群)と、抗TNFα薬以外の薬剤にて治療中であった77例に対して行われた95件(非TNFα群)である。

 手術の内容は、股関節全置換術(THA)39件、膝関節全置換術(TKA)78件、肘関節全置換術(TEA)13件、足関節全置換術(TAA)1件、肩関節全置換術(TSA)1件、足関節固定術(AD)4件であった。また、抗TNFα薬の内訳は、インフリキシマブ(IFX)が24件、エタネルセプト(ETN)が17件であり、いずれの薬剤とも、手術前から術後に創傷が完全に治癒するまでの2〜4週間は投与が中止された。

 平野氏らは、これらの手術に伴う術関連トラブル縫合部の被裂、入院日数の延長、感染症など)の発生状況、創傷治癒までの期間、37.5℃を超える発熱の期間、術後4週時における生化学マーカーヘモグロビン:Hb、総たんぱく:TP、アルブミン:Alb)の回復率を、TNFα群と非TNFα群との間で比較した。

 解析の結果、手術関連トラブルの発生は、TNFα群で2件(4.9%)、非TNFα群で7件(7.4%)であり、両群間に有意差は認められなかった。TNFα群のうち1件は、TKA後に感染を生じたケースであったが、滑膜切除抗生物質投与によって沈静化をみた。また、創傷治癒までの期間(両群とも10.8日)と発熱(>37.5℃)期間(TNFα群2.3日 vs. 非TNFα群3.1日)も両群で同等であった。

 また、術前値と比較して、術後4週時におけるTPおよびAlbの回復率にも有意な差は認められなかった。しかしながら、Hb回復率は、非TNFα群の91.1%に対し、TNFα群では95.1%と有意に高率であった(p<0.05)。この傾向は、THA手術を受けたサブグループで特に顕著であった(86.5% vs. 101.0%、p<0.01)。

 以上より、周術期に一時的に投与を中止した上で、RA患者に抗TNFα薬を使用することは、整形外科手術の創傷治癒や回復の妨げとはならず、むしろHbの回復を助ける傾向さえあることが示された。平野氏らは、「抗TNFα薬と従来のDMARDの抗リウマチ作用の違いが、Hb回復率の差という形で現れたのかもしれない」と推測している。