「少なくとも短期的には抗TNFα療法がMIリスクを上昇させることはなく、CVAについてはむしろリスクの低下をもたらす可能性がある」と語るマンチェスター大のWilliam G. Dixon氏

 生物学的製剤の安全性の検討を目的とした英国リウマチ学会の生物学的製剤レジストリーBSRBR)は、登録者数約1万例を数える世界最大級のデータベースである。その運営を担う英国マンチェスター大のWilliam G. Dixon氏は、同データベースに基づき関節リウマチRA)患者の心筋梗塞(MI)および脳血管障害(CVA)リスクと抗腫瘍壊死因子(TNF)α療法との関連性を検討した結果について、「少なくとも短期的には抗TNFα療法がMIリスクを上昇させることはなく、CVAについてはむしろリスクの低下をもたらす可能性がある」と述べた。

 RA患者が一般人口に比べて高い死亡率を呈する理由の1つは、RA患者ではMIやCVAなどの心血管疾患(CVD)の頻度が2〜3倍も高率であることにある。CVDの発症・進展は、炎症によって促進されることから、炎症反応カスケードの上流に位置するTNFαをターゲットとした抗TNFα療法は、RAの症状改善および関節破壊の抑制のみならず、CVDリスクの低下にも有用である可能性が示唆される。そこでDixon氏は、BSRBRに登録されたRA患者のうち、抗TNFα療法にて治療中の患者8073例と、抗リウマチ薬(DMARDs)で治療中の患者1807例を対象とし、両者のCVDイベント発生率を比較した。

 抗TNFα療法群の内訳は、インフリキシマブ2812例、エタネルセプト3782例、アダリムマブ1479例であった。同氏らは、2006年3月までの6カ月間にこれらの患者に起こったMIおよびCVAイベントの履歴を、毎月1回の問診記録と患者日記で確認するとともに、死亡例については英国政府統計局の記録から死亡原因を同定し、抗TNFα療法群とDMARDs群におけるイベント発生率を比較した。なお、「イベント」は、死亡および入院,身体機能障害を伴った事象とした。

 集計の結果、両群における1000患者・年当たりのイベント発生数は、抗TNFα療法群がMI 5.6、CVA 3.9、DMARD群がMI 7.2、CVA 5.7であり、MI、CVAとも抗TNFα療法群の方が低率であった。ただし、両群の患者背景には、年齢(DMARDs群でより高齢)、重症度(同群でより軽症)、罹病期間(同群でより短期)、合併症の併存率(同群でより高率)の各パラメータに偏りが認められたため、これらを補正したところ、抗TNFα療法群のイベント発生の相対リスクは、MIが1.20(95%CI:0.45-3.20)、CVAが0.51(0.27-0.95)となり、CVAリスクの有意な低下が認められた。

 MIについては有意差は認められなかったが、DAS28スコアで評価した治療反応性が「good」または「moderate」であった患者に限れば、相対リスクは0.39と有意に低下していた。

 以上よりDixon氏は、「少なくとも短期的には、抗TNFα療法がMIリスクを上昇させることはなく、CVAリスクについては減少をもたらすと考えられる」と結論した。また、抗TNFα療法の影響がMIとCVAで異なったことについて同氏は、「両疾患の病態生理におけるTNFαの役割の差を反映しているのかもしれない」との意見を述べた。