3月下旬、東北大学病院卒後研修センターの菅野武氏を訪ねた。取材の主目的は、東日本大震災で大津波に襲われた公立志津川病院で奮闘し、直後にTIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれて以来(関連記事)、津波の体験や被災地の状況について情報発信を続けてきた菅野氏に5年を振り返っての感想を聞くこと。菅野氏はその間の大きな出来事として、学位論文の研究について説明してくれた。

東北大学病院の菅野武氏

 研究テーマは「災害ストレスと消化性潰瘍の関連性」で、震災後の宮城県内で消化性潰瘍、とりわけ重度の出血性潰瘍が多発した現象を分析したもの。折しも、先週14日以来の熊本地震では、肺塞栓症の発生(関連記事)や避難所での震災関連死が報告されるなど、被災者の身体への影響が出始めている状況であり、早急に注意を喚起する意味で震災時の出血性潰瘍の知見について紹介したい。

 なお、熊本と大分、および九州全域の医療者の目に少しでも留まってほしいということで、本稿のタイトルは予言めいたものとしたが、外れて消化管出血が増えなければ何よりということで、ご容赦いただきたい。

震災後、出血性潰瘍は2.2倍に
 菅野氏らは、東日本大震災発生直後からの3カ月(2011年3月11日〜6月11日)に宮城県内の沿岸・内陸の基幹7施設で処置した消化性潰瘍について、前年同時期(2010年3月11日〜6月11日)と比較。震災後3カ月の消化性潰瘍は383例で、前年(261例)の1.5倍。出血性潰瘍に絞ると、震災後は257例で、前年(119例)の2.2倍と大幅に増加した(J Gastroenterol.2013;48:483-90.ほか)。調査結果については、日経メディカルでも既報している。

 震災後の出血性潰瘍の特徴は、胃に多発し、輸血を要する重症例が多かった。実際に7施設に出向いて多数の内視鏡像を確認した菅野氏によると、消化器内科でも今はめったに遭遇することがないような、目を見張る多発・巨大潰瘍がゴロゴロ見られたという。

 出血性潰瘍の発生のピークは発災から10日目。前年の5〜6倍という鋭いピークを記録した。阪神淡路大震災においても消化性潰瘍のピークは2週後だったと報告されており、今回の熊本地震についても、まさにこれから来週にかけて出血性潰瘍の多発が危惧される。

 実際、当時の石巻赤十字病院では、吐血患者を乗せたストレッチャーが列をなす異常事態だったという。九州の医療機関においても緊急内視鏡検査の備えを行っておきたい。また、そのような事態を回避あるいは緩和するため、「抗血栓薬の服用など、出血リスクが高い人には、プロトンポンプ阻害薬を投与するという予防策が考えられる」(菅野氏)。

簡易ベッドで避難所の環境向上を
 菅野氏らの研究でさらに特筆すべきは、潰瘍出血の危険因子。ロジスティック回帰分析で検討して、ピロリ菌感染やNSAIDs服用が有意な因子とはならない中で、避難環境のオッズ比(vs.非避難環境)は4.43(95%信頼区間2.05-9.55)。避難所の環境を少しでも改善する必要性が示唆された。

 仙台市で3月18〜20日に開催された第80回日本循環器学会学術集会では、震災による心血管系への影響など、この5年で得られた知見を振り返る報告が複数なされ(関連記事1関連記事2)、新潟大学大学院呼吸循環外科学分野講師の榛沢和彦氏は、160カ所の避難所で深部静脈血栓症(DVT)をスクリーニングした結果を提示した。榛沢氏は避難所の環境が避難者の健康状態に及ぼす影響を強調。日本の避難所環境の劣悪さを欧米との比較で示し、その差を埋めるための効果的な対策の1つとして、ダンボールで作る簡易ベッドの備えを訴えた。

 榛沢氏も関わる「弾性ストッキング配布とダンボールベッドの設置の支援活動」チームは既に熊本に入り、避難所での深部静脈血栓症の発症の確認、車中泊の人への弾性ストッキング配布とはめ方の指導、避難所への簡易ベッド設置を現地の医療スタッフとともに始めている。以前の震災で得られた反省点を生かし、多くの避難所をカバーしてくれることを期待したい。

 激震地の熊本県や大分県は言うに及ばず、地震が連続する状況は近隣の県の住民にとっても大きなストレスとなっていることは想像に難くない。震災ストレスによる健康被害への備えが広いエリアの医療機関で求められる。


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