急に体が冷えたときやお酒を飲んだとき、トイレに行く回数が多くなったという経験は、誰にでもあると思います。しかし、そのような一時的な頻尿ではなく、普段から尿の回数が多かったり、また夜間に何度も尿意を感じて目が覚めたりするような頻尿は、不快なものです。

 頻尿は尿の回数が多い病態ですが、尿量が毎回多い場合もあれば、そうではない場合もあります。さっき排尿したばかりなのに、すぐにまた尿意を感じるといったこともあります(尿意促迫)。

 漢方では、尿は六腑の膀胱に貯蔵され、五臓のの作用によって排泄が調節されると捉えます。また、体の全体の機能を調整する五臓の(かん)や、体液の調整をするの機能も関係してきます。人体の主な構成成分である気・血(けつ)・津液(しんえき)の中では、人体に必要な正常な体液を意味する「津液」が最も関与します。

 五臓六腑のうち、五臓は気・血・津液などを生成し貯蔵する機能的単位であり、六腑は飲食物を受け入れて排泄まで導く中空の器官です。これらのうち五臓のと六腑の膀胱は密接な関係にあり、両者の連携により、排尿がコントロールされます。臓と腑の関連は深く、臓腑は「表裏をなす」関係にあるといいます(臓が陰で裏、腑が陽で表)。

 頻尿の証には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「腎陽虚(じんようきょ)」証です。成長・発育・生殖および水液や骨をつかさどる五臓の腎の陽気が不足している体質です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。老化や慢性疾患により人体の機能が衰えて冷えが生じるとこの証になり、特に夜間に頻尿になりやすくなります。昼間は津液を全身に行き渡らせる機能の低下により津液が停滞し、むくみやすくなり、尿量はむしろ少なめです。体を温めて腎陽を補う漢方薬を使います。

 二つ目は「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎陽虚と異なり、陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精(せい)を指します。精は、腎に貯えられる、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質のことです。加齢や過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良などによって精が減ると、尿を保持することができなくなり、頻尿が生じます。尿の色は濃く、量は少ないです。腎の精気など腎陰を補う漢方薬で頻尿を治します。

 三つ目は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄:そせつ)する臓腑である五臓の肝の気(肝気)の流れが滞っている体質です。ストレスや緊張が持続すると、この証になります。肝気の流れの悪化の影響が膀胱に及ぶと、膀胱内の尿量が少なくても尿意を催しやすくなり、頻尿になります。尿意促迫も生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、頻尿を治していきます。

 四つ目は「肺気虚(はいききょ)」証です。過労や慢性的な体調不良の影響で、水分代謝をつかさどる五臓の肺の機能(肺気)が衰え、津液が全身に散布されずに膀胱に下降し、頻尿になります。色の薄い尿が、特に疲れたときなどに多く出ます。肺気を補う漢方薬で津液の流れを正常化させ、頻尿を治します。

 上記のような臓腑の失調以外にも、頻尿となる証があります。

 五つ目は「寒凝(かんぎょう)」証です。寒い季節や寒冷な環境、冷たい飲食物の摂取などにより、寒冷の性質を持つ病邪である寒邪(かんじゃ)が体内に侵入すると、この証になります。そして寒邪が腎や膀胱に下降してその機能を乱すと、頻尿になります。冷えて薄い色の尿が出ます。体を温めて寒邪を取り除く漢方薬で頻尿を改善します。

 六つ目は「湿熱(しつねつ)」証です。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。脂っこい物、刺激物、味の濃い物、生ものやアルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔な物の飲食、あるいは細菌の尿路への侵入などにより、この証になります。湿熱邪が膀胱に侵入することにより、頻尿が発生します。尿の色は濃く、尿意促迫や排尿痛もみられます。漢方薬で湿熱を除去し、頻尿を改善していきます。

■症例1


「膀胱炎です。頻尿で、残尿感があります」

 尿の色は濃く、ときに排尿痛を伴います。数年前から膀胱炎にかかりやすくなりました。舌は赤く、黄色い舌苔が付着しています。

 この人の証は「湿熱」です。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。湿邪は湿っぽい性質、熱邪は熱っぽい性質を持つ病邪です。この湿熱邪が膀胱に侵入することにより、頻尿が発生します。前述の通り、尿路への細菌の侵入だけでなく、脂っこい物、刺激物、味の濃い物、生ものやアルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。残尿感、尿の色が濃い、排尿痛、赤い舌、黄色い舌苔などは、この証の特徴です。排尿時の熱感、尿意促迫、いらいらしやすい、などの症状を伴う場合もあります。逆に排尿困難になる場合もあります。

 この証の人に対しては、湿熱を除去する漢方薬で、頻尿を改善していきます。代表的な処方は五淋散(ごりんさん)です。この人の場合、服用を始めて2週間くらいで排尿痛が緩和され、1カ月後には頻尿も解消しました。

 頭痛、不眠、黄色い舌苔がべっとりと付着している、などの症候を伴う場合は、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)を使います。

 体が冷えて頻尿になる場合もあります。「寒凝」証です。残尿感や尿意促迫を伴う場合もあります。尿は薄い色をしています。当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)や人参湯(にんじんとう)を用いて治療します。膀胱炎を疑われて抗菌薬を服用しても効果はありません。